研究課題
本年度の研究では、北米に生息する周期ゼミの特徴的な素数周期性(13年、17年)の獲得メカニズムを解明するために、コンピュータシミュレーションを用いて研究を実施した。周期ゼミとは毎世代13年または17年で大量発生するセミで、13年ゼミと17年ゼミが共存する地域は存在しない。なぜ周期性が進化したのか、そしてその周期はなぜ素数なのかという謎が残されている昆虫である。我々は氷河期という気候変動、環境変動が周期ゼミの進化に影響を及ぼしているという仮説に注目し、コンピュータシミュレーションモデルを個体ベースで構築した。具体的には、コンピュータの中に、日本に生息するようなセミと、周期ゼミの二種類を再現し、温度が変化する環境を作り出すことで、平均気温の変化が進化にどのような影響を与えるか検証した。また、周期ゼミに影響を与えていることが確認されているアリー効果の有無や、気温の変化の仕方、獲得する周期の長さ、突然変異率の設定など、様々なパラメータが互いにどのように影響し合っているか検証するために感度分析を実施した。結果として、周期ゼミは氷河期による平均気温の低下により、交尾機会が減少することで、現在のような特性を獲得したという仮説を裏付けるようなシミュレーション結果が導出された。つまり、氷河期のような気温の低下が起こらないことには、周期ゼミの誕生も引き起こされないという結果を導いた。また、セミを取り巻く平均気温によって獲得することのできる周期が決定されることが示された。これは実際の13年ゼミが南部に、17年ゼミが中東部に生息することと矛盾しない結果である。この成果をScientific Reports誌に投稿し、現在査読を受けている。これらのほか数件の研究成果を国際学術誌に投稿している。
1: 当初の計画以上に進展している
研究の展開は滞りなく進行している。当初の予定通り周期ゼミの周期性獲得メカニズムに関する論文はNature Communication誌の推薦を受け、Scientific Reports誌に投稿することができた。さらに申請者の伊東啓は男女の性差に関する英語原著論文を共著者(第三著者)として1通Nature Publishing GroupのScientific Reports誌に発表している。さらに伊東が筆頭著者の論文を一通Scientific Reports誌に投稿中である。この論文は協力行動が社会からの圧力によって促進されていることを、悪質な飲酒運転とその後の法改正のデータをもとに検証したものである。これらをあわせて今年度の研究は上述の発表論文1通、さらに投稿中の論文は周期ゼミの論文を含め伊東が第一著者の論文が2通、共著者としての論文は3通投稿中である。
今後も昨年度のように、幅広い分野で研究を推し進めてゆく予定である。計画に問題は全くないと判断しているため、変更の予定も現在のところ想定していない。まずはこれまでに投稿した論文に関して、掲載決定にまでこぎつけてゆくつもりである。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件)
Scientific Reports
巻: 4: 5425 ページ: 1-5
10.1038/srep05425