研究課題/領域番号 |
14J03027
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小林 大 東京工業大学, 大学院理工学研究科(理学), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 高エネルギー加速器実験 / LHC-ATLAS実験 / レプトンフレーバーの破れ / タウレプトン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、標準模型では見られないレプトンフレーバーを保存しない崩壊事象を標的として、標準模型を超える新物理を探索することである。大型陽子陽子衝突型加速器(LHC)を用いたATLAS実験においては、Wボソン、Bメソン、Dメソンなどの崩壊から膨大な量のタウレプトンが放出されるため、その3ミューオン崩壊事象の探索を行っている。 本年度は2012年に取得された重心系エネルギー8TeVの解析を終了し、European Physics Journal Cから結果が公表されることが決定している。この解析においてはWボソン由来のタウレプトンのみを用いた解析を行っており、過去の実験の精度を超えることはできなかったが、ATLAS実験としては初めての結果となっている。そのため、今後のATLAS実験の運転での最高精度探索の可能性を示す、非常に重要なものであった。 また、2015年春からはLHCは重心系エネルギーを13TeVにあげて運転を再開した。この運転からは、昨年度に開発したこの解析に特化したトリガーが実装されており、性能の確認等が必要であった。そのため、この研究において最も重要なポイントの1つであるトリガーの効率の確認などを逐一行い、安定した運転に努めた。それに加え、2015年及び2016年のデータを用いた解析にも着手しており、2012年の手法を踏まえて、様々な改善の手法を考案した。中でも、2012年のデータを用いた解析では使っていなかった、BメソンやDメソンの崩壊由来のタウ粒子を用いた解析手法を考案することに注力してきた。これについては、D_sが2つのミューオンと1つのパイオンに崩壊する事象を用いて規格化する手法など、現在までに幾つかの方針と、事象選別に効果的な物理量の候補を発見することができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず第一に、2012年のデータを用いた結果を公表するにいたり、ATALS実験でもこの探索が可能であることを示すことができたことが挙げられる。これまではレプトンコライダーの実験での結果がほとんどであり、ハドロンコライダーの結果はあまり得られて来なかったため、これは新たな可能性を示すものの1つとなった。また、ATLAS実験では重い新粒子の探索による新物理の探索が主流である中、更に幅を広げる可能性を示すことができたとも言える。 一方で、上記の2012年のデータを取得する際には、専用のトリガー等がなかったために事象の取得効率が非常に低かったことがわかっている。そのため、専用トリガーの導入を新たな運転に間に合わせ、効率の改善を確認し、1年間問題なく運転させることができたことは重要な成果である。更にもう一つの重要な改善点である、BメソンとDメソンに由来するタウレプトンからの信号は、Wボソン由来のものに比べて数が圧倒的に多く、効率よく利用できれば精度の大幅な改善が見込まれる。そのため、これらを標的とした解析にも着手したことも非常に大きな意味を持つ。現在までに解析の手法は大まかにではあるができつつあり、信号事象の効率的な取得に対して研究を進めている。 しかし、2015年のデータの解析及びBメソン、Dメソン由来の信号を使う解析は完成には至っておらず、手法としてはまだ未熟である。これは来年度中の課題として認識しており、進行状況としては問題はないため、概ね順調として認識している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2015年のデータの解析を行う。2012年の運転よりも事象数自体は少ないため、2012年データの解析結果を上回る精度は出ない可能性があるが、専用トリガーの導入及びBメソン、Dメソン由来のタウレプトンを用いた手法を確立することが重要である。この改善により、結果としては2012年のものよりも良いものが出ることも十分期待はできるが、あくまでBメソン、Dメソン由来の信号をもちいた手法を確立することを目的とする。 2016年もLHCは同じ重心系エネルギーで運転を続けるため、2015年のデータと合わせることでより大きな統計量を得られることが確実であり、結果として公表するのはその解析結果となるべきである。よって、次年度の研究のおおまかな流れとしては、Bメソン、Dメソン由来のタウレプトンを用いた手法を確立し、最終的に2016年のデータも合わせることで結果を得るということになる。また、効率の評価や系統誤差の見積もり等は2012年の解析を元に行うが、変更を行う必要がある箇所が存在する。特に専用トリガーの導入に伴い、トリガー効率の見積もりについては大きな変更が必要となり、ミューオンの再構成についてもアルゴリズムの改善が行われたため再度見積もる必要がある。見積もり手法としては2012年のデータに対して行ったものと大きくは変わらず、私が構築した手法であるため、2015年以降の状況を加味して修正することで完成できると考えている。 このように幾つかの点について並行して研究を進めていく必要があるものの、解決の方針はすでに立っているため、早くに結果を導出するよう尽力することとする。
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