本研究は、欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を用いた陽子陽子衝突実験の一つであるATLAS実験に参加して行ったものである。 この研究の目的は、レプトンセクターでのフレーバー非保存の探索を行うことで標準模型を超えた物理の証拠を探ることである。特に、タウ粒子が3つのミューオンに崩壊する事象(τ→3μ)は3つのミューオンから不変質量が再構成できることなどから、本実験においては非常に有利な信号である。そのため、ATLAS実験ではこれまで行われてこなかったτ→3μの探索による新物理探索を行った。 本年度には、2012年に行った重心系エネルギー8TeVでの陽子陽子衝突で取得した、積分ルミノシティ20.3fb-1に相当するデータを用いた解析結果の公表を行うとともに、2015年以降の運転(Run2)における重心系エネルギー13TeVでのデータを用いた場合の感度の見積もりを行った。Wボソンの崩壊由来のタウ粒子に着目し、ATLASでは初めての結果を導出することに成功したが、τ→3μの観測には至らずその分岐比に対する上限値は3.76×10-7となった。この感度はBelle実験による2.1×10-8と比較して1桁悪いという結果であったが、これは効率改善のための専用トリガー開発の必要性を明らかにする上でも重要な結果ともいえる。一方でRun2は2015年から開始され、2018年までに積分ルミノシティ100fb-1に及ぶデータを取得することを計画している。更に専用トリガーの開発による効率改善と生成断面積の上昇も考慮に入れて感度の向上を見積もった。 また、DメソンやBメソンなどのHeavy Flavor(HF)由来のタウ粒子にも探索範囲を広げることを考え、手法を構築して感度を見積もった。
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