採用1年目の本年は,西南部九州二型アクセント諸方言の調査および出雲地域諸方言アクセントの調査を主に行った。 西南部九州二型アクセント諸方言の調査では,佐賀県の旧杵島郡・藤津郡の方言アクセントについて調査を行った。これは主に五十嵐陽介氏(広島大学)との共同研究であるが,この調査研究により,従来の西南部九州二型アクセントの歴史についての定説を覆す重要なデータを得られたことは大きな成果であった。この研究成果については,五十嵐陽介氏を第一発表者として,日本言語学会で口頭発表を行った。日本語アクセント史の専門家からも概ね我々の主張に対しての同意・支持を得ており,さらなる調査研究を進めることがのぞまれる。なお,その後,五十嵐陽介氏らとともに熊本県玉名市方言アクセントの調査も行った。玉名市方言アクセントにおいても上記の佐賀県旧杵島郡・藤津郡諸方言のアクセントと同様の現象が見られたことは特筆すべきことである。また,出雲地域諸方言についても複数回調査を行った. 成果の発表という点では,石川県能登島諸方言のアクセントに関して,合計二回の口頭発表を行い,そこでの議論を踏まえた上で執筆した論文が『日本語の研究』に掲載されたことが特筆される。また,大分県杵築市方言のアクセントのデータに若干の考察を添えた研究ノートが『京都大学言語学研究(KULR)』に採用された。また,文献資料を用いた平安時代語アクセントについても研究発表を複数回行った。 遺憾であるのは,文献調査などに時間を割いたために方言調査に予定よりも時間をかけることができなかったことと福岡市を中心とする筑前式アクセント諸方言の調査が十分にできなかったことである。特に筑前式アクセントの調査については調査協力者探しが上手くいかなかったことが主な原因である。
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