研究課題/領域番号 |
14J03120
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
杉本 泰 神戸大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 半導体ナノ結晶 |
研究実績の概要 |
半導体ナノ結晶コロイドの塗布によるナノ結晶薄膜の作製は、太陽電池などの大面積電子デバイスの製造コストを大幅に下げる可能性を秘めており、新しい半導体プロセス技術として注目されている。本年度は我々が開発したn型、p型不純物同時ドープシリコン(Si)ナノ結晶コロイドによる塗布型半導体薄膜形成において重要な課題として、(i)更に広範囲にナノ結晶の発光・吸収エネルギーを制御する、(ii)高品質なコロイドの大量生成方法の開発を念頭に研究を行った。(i)に関して、同様のプロセスを用いてゲルマニウム(Ge)と混晶化することにより、コロイド状SiGe混晶ナノ結晶の作製に成功し、可視領域でのナノ結晶の吸収断面積の増大を実証した。これは、太陽電池などの受光デバイス応用に重要な成果である。(ii)に関して、水素シルセスキオキサンを用いて化学的にSiナノ結晶を合成する方法と不純物同時ドーピングを組み合わせることにより、従来の真空製膜プロセスを用いずにナノ結晶コロイドを作製する技術を開発した。 上記に加えて、Siナノ結晶は生体適合性が高く、近赤外発光を示すことから、バイオイメージングへの応用が期待されている。本年度はSiナノ結晶コロイドのバイオ応用に向けた基礎データ収集のために、チェコ共和国・カレル大のMarie Kalbacova博士のグループとの共同でSiナノ結晶を細胞内に注入した場合の毒性評価や発光特性の安定性評価を実施した。2014年6月1-15日の間カレル大に滞在し、Siナノ結晶の発光特性・安定性の最適化に関する共同研究を行った。ナノ結晶は細胞内で赤色~近赤外領域に発光を示し、細胞の長期安定性について基礎的なデータを得た。また、2014年9月から現在に至るまで、ボストン大学のLuca Dal Negro教授のグループにて、プラズモニクスとの融合による発光効率向上を目的として研究を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の当初の計画より、「n型、p型不純物同時ドープコロイド状シリコンナノ結晶」を研究対象として、さらなる高機能・高性能化を念頭に研究を行った。前者に関しては、コロイド状シリコンナノ結晶の開発と物性評価を行い、さらには混晶化による光吸収特性の向上に成功し、これらの成果を英文学術誌に発表した。また、従来と全く異なる真空プロセスを用いない同時ドープコロイド状シリコンナノ結晶の大量生成方法を開発し、国際会議及び英文誌に発表した。これらの研究の過程で当初計画にはなかったリン化ホウ素ナノ結晶の新しい作製方法を発見し、英文学術誌に発表した。以上の成果に加えて、カレル大学(チェコ)のグループとの本材料の蛍光バイオイメージング応用に関する共同研究にも進展があり、さらに、ボストン大学(アメリカ)と共同で金属ナノ構造の表面プラズモン励起による本材料の発光制御に関する研究をスタートし、予備実験等で良好な結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本材料の光電子デバイス応用に向けて、重要な課題であるナノ結晶薄膜の光学・電気伝導特性評価を行う。基板の前処理技術と塗布方法の開発を行い、ラフネスを抑えたナノ結晶薄膜を形成する。また、作製した薄膜の光透過特性、発光特性、電気伝導特性の評価を行い、塗布薄膜のデバイス応用に向けた基礎データを蓄積する。また、ナノ結晶が密に充填した薄膜ではナノ結晶同士の電子的な結合により、多重キャリア生成などの新たな物性の発現が予測されている。溶液中と薄膜中でのナノ結晶の発光特性の変化より、塗布薄膜におけるナノ結晶間相互作用の効果を明らかにする。 さらに、本材料の蛍光バイオイメージング応用に関して、引き続きカレル大学との共同研究での細胞内でのナノ結晶の濃度、構造特性の最適化・毒性評価・発光安定性の評価を行い、応用可能性の実証を進める。ボストン大学との共同研究により、上記応用に向けてシリコンナノ結晶の更なる高効率発光を実現する。具体的には、表面プラズモンによるシリコンナノ結晶の発光増強を目指し、水溶液中での金ナノロッド―シリコンナノ結晶複合体の開発、発光増強効果の最適化を行う。
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