昨年度に引き続き、南アフリカ望遠鏡IRSFに搭載する近赤外線分光器の開発を行った。本年度は主に分光部の光学調整を進めた。具体的には、望遠鏡焦点位置にピンホールを設置して常温下で測定を行い、光学素子の配置を調整した。次に光学系を冷凍機で70 Kまで冷却し、低温下での結像性能を評価した。その結果、像のサイズはシミュレーションから期待されるより広がっており、熱収縮による光学素子の移動量が想定と異なることや、光学素子の形状誤差の影響が考えられる。本観測装置について、予想外の検出器関連のトラブルがあり、本研究課題の採用期間中に望遠鏡に取り付けて観測まで行うことはできなかったが、必要な光学コンポーネントや検出器の読み出しシステムを完成させた。今後も引き続き開発を進めていく予定である。 上記の分光器の開発に加え、早期型銀河の星形成の研究を行った。早期型銀河は銀河進化の末期にあり、X線プラズマがガスの収縮を妨げて星形成を抑制すると考えられているが、その観測的証拠は十分ではない。この早期型銀河の星形成活動について統一的な描像を得るため、観測やシミュレーションにより種々の系統的研究が行われている260個の早期型銀河(Cappellari et al. 2011)に対し、赤外線天文衛星「あかり」の観測結果を用いてサンプル銀河の赤外線放射特性を調べた。具体的には、「あかり」衛星の全天観測にWISE衛星などの観測を加え、有機物PAHの光度を求めた。得られたPAH光度を銀河の星形成率に換算し、この結果を分子ガスの質量と比較しところ、星間物質を星に変換する効率は通常の星形成銀河と同程度であった。この結果は、星形成の材料である星間物質の減少が原因で星形成が不活発となっていることを意味しており、早期型銀河の星形成活動について重要な観測的示唆を与えるものである。
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