研究課題/領域番号 |
14J03209
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
布宮 亜樹 東北大学, 医工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | Phd2 / 低酸素応答 / トレーニング |
研究実績の概要 |
申請者のこれまでの研究では、低酸素応答によるヘマトクリット値・ヘモグロビン濃度の上昇が持久性トレーニングの効果に影響を与える確証は得られていなかったが、トレーニングプロトコルを改良し、より最大運動能力を高めることに特化した長期間のトレーニングをPhd2遺伝子欠損マウスに行わせたところ、コントロールマウスに比べて有意に高いトレーニング効果が得られることが明らかとなった。これらの結果から、低酸素応答によるトレーニング効果への影響は、トレーニングの内容により左右される可能性があり、特に持久性トレーニングに効果的であることが示唆された。 Phd2遺伝子欠損マウスでは、高確率で脾腫が発生することが確認されており免疫システムにもなんらかの異常が起こっていることが予想された。しかし、フローサイトメトリーを用い、肥大が見られた脾臓から採取した免疫細胞の網羅的解析を行ったところ、脾腫の原因は赤芽球増多であることが明らかになり、特筆すべき免疫異常は確認されなかった。 Phd2遺伝子を欠損したマウスは、ヘマトクリット値が70%以上にまで上昇するものがほとんどであった。過度な血液粘度上昇が血栓形成や血流不良を引き起こすことが予想されたが、寿命についてはコントロールマウスと比較しても短命ではなく、運動遂行についても問題はなかった。これには、血管新生が血流を促す一因になっている可能性が高く、Phd2欠損により新たに形成が誘導された血管が形態的にも機能的にも正常であることを確認することが求められる。現在毛細血管の三次元イメージングを準備中であり、新たな血管がどのような形態でどのような場所に分布しているかを明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
進行中の研究のプロトコルを全面的に見直すことで、新たな知見を得ることができ、今後の研究展開の方向を位置づける大きな助けとなった。 また、低酸素応答に伴う生体の危険性を探索するアプローチの一つとして、Phd2遺伝子欠損マウスの肥大した脾臓から得られた細胞のフローサイトメトリー解析を行い免疫異常の有無を確認したが、脾腫の原因は赤芽球増多であり免疫異常を示唆する所見は得られなかった。この点で、二年目に予定していた、低酸素暴露時に起きる免疫システムと炎症の状態の解析については目的がおおむね達成されたものと考える。 免疫異常というリスクが排除されたことに加え、過度なヘマトクリット値上昇による血液粘度上昇がもたらす危険性については、ヘマトクリット値が80%を超えるマウスもいるにも関わらず死亡例は一件もなく、なんらかの血流促進作用が働いていることが考えられた。その作用の一つとして、血管拡張作用をもつ一酸化窒素の合成酵素を測定したところ、Phd2遺伝子欠損マウスの血清中の一酸化窒素合成酵素濃度が有意に増加していることが明らかになった。この点でも一年目に予定していた血球の過剰増多による血流悪化についての検証が十分に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
低酸素応答が起こることによるリスクについて、免疫システム異常についての解析はほぼ完了しており、さらなる進展は見込めないものと考え、今後は、Phd2遺伝子欠損により起こる血液粘度上昇による血流悪化に焦点を当てた解析を中心に行っていく予定である。その一つとして、低酸素応答により新しく形成が誘導された毛細血管が形態的・機能的に正常であるかを検証するために三次元イメージングを計画中である。また、Phd2遺伝子欠損マウスにおける血清中一酸化窒素の合成酵素増加については、血流促進や血栓形成防止にどの程度影響を持つかを検証するために、一酸化窒素阻害剤を用いた検証を行う予定である。 更に、これまで用いてきたPhd2遺伝子欠損マウスに加えて、臓器特異的Phd2遺伝子欠損マウスを用いた解析を行い、血管新生・赤血球増多がそれぞれ単独で誘導される状態を作り出すことで血管新生と血流の因果関係も明らかにすることができると考えている。
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