昨年度までの研究により、全身性Phd2欠損マウスに4週間の持久性トレーニングを行わせると、1.コントロールマウスと比較して高いトレーニング効果が得られること、2.トレーニング効果の向上にはPhd2欠損だけではなくトレーニングによる骨格筋適応が不可欠であること、の大きく二つが明らかになった。これを受け、本年度は低酸素トレーニングにおける骨格筋適応の重要性をより詳細に明らかにするために、骨格筋特異的Phd2欠損マウスの使用を検討した。 骨格筋特異的Phd2欠損マウスの作出には、Cre-loxPシステムを用いた。昨年度中に既に正常にマウスが誕生することを確認しており、骨格筋におけるPhd2遺伝子欠損率や骨格筋以外での欠損の有無を検証したところ、狙い通り骨格筋でのみPhd2を欠損し、全身性Phd2欠損マウスで観察された顕著な赤血球数増多は見られないことが明らかになった。一方、骨格筋における毛細血管数は増加傾向にあり、血管新生を誘導するVEGFタンパク質の発現も増加していた。より詳細な血管観察を行うために、小動物用CTを用いた血管の三次元解析を行ったところ、末端の毛細血管は造影されなかったものの、観察可能であった太い血管の形態は正常であることが示唆された。また、同マウスに小動物用トレッドミルを用いた持久性運動能力テストを実施したところ、トレーニングを行わない時点での運動能力はコントロールマウスと同程度であることが明らかになりつつあり、トレーナビリティを比較するための条件が揃ったといえる。 本年度の検証によって、ヘマトクリット値上昇の影響を排除した上で、低酸素応答やトレーニングにより引き起こされる骨格筋適応に焦点を当てた解析を行うことが可能になり、より効果的かつより安全なトレーニングプログラムの作成に貢献することが期待される。
|