研究課題
本研究の目的は、エナメル上皮腫細胞が分泌する液性因子が周囲の細胞に影響を与え、本疾患の骨浸潤能に関わる分子機構を解明することである。平成26年度は、我々が樹立したエナメル上皮腫不死化細胞株であるAM-3、破骨細胞前駆細胞RAW264.7、ヒト線維芽細胞株HFF-2および病変部より採取し培養した線維芽細胞を用いて実験した。マイクロアレイによる各細胞の遺伝子発現解析をはじめ、細胞の培養上清を用いて細胞間の相互作用による遺伝子・蛋白発現の変化、破骨細胞分化や細胞遊走能・増殖能の変化を解析した。その結果、AM-3細胞はHFF-2細胞に比べ、IL-1α、IL-1β、IL-8、TNF-αなどのサイトカインの遺伝子やMMP-3といった骨吸収に関わる因子を高発現していた。また、病変部嚢胞腔の内容液は IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、TNF-αを高濃度に含んでいた。AM-3の培養上清で刺激した線維芽細胞では、IL-6とIL-8 の遺伝子発現が著明に亢進した。さらに、AM-3細胞の培養上清刺激の際に、抗 IL-1α抗体または IL-1Ra(レセプターアンタゴニスト)を加えたところ、この反応は中和可能であった。タンパク分泌について評価したところ遺伝子発現の変化と同様の傾向であった。また、AM-3細胞の培養上清で刺激された線維芽細胞の培養上清は、AM-3細胞の細胞遊走能を有意に亢進した。また、その反応は抗 IL-6 抗体、抗 IL-8 抗体により中和することが可能であった。また、 IL-6、IL-8 で刺激した AM-3 細胞の細胞遊走能および細胞増殖能は有意に亢進した。これらの知見は、エナメル上皮腫細胞は IL-1α分泌を介して間質線維芽細胞と相互的に働き、腫瘍の浸潤発育に有利な微小環境を形成する可能性を示す。これらの成果は論文として英文雑誌に採択済みである。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究成果は英論文雑誌に採択済であり、その研究成果は今後の研究進展において非常に有意義であるため、今後の研究促進が期待できる。
今後は、腫瘍細胞と腫瘍周囲のの相互作用が、エナメル上皮腫における骨破壊のきっかけになるであろう破骨細胞分化に対してどのような影響を持つのかについて研究を進める予定である。破骨細胞の前駆細胞であるマクロファージ株RAW264.7細胞を用い、腫瘍細胞の刺激を受けた線維芽細胞が破骨細胞分化に与える影響をTRAP染色やオステオアッセイにて評価する。また、マイクロアレイにて明らかとなった本腫瘍に特異的に発現する因子が、本疾患の骨浸潤能に与える影響について解析を進めていく。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 451 ページ: 491-496
10.1016/j.bbrc.2014.07.137