研究実績の概要 |
H26年度の研究において、2つのBF2基で架橋したジピロリルエタンジオン骨格が著しく高い電子受容性を示すことを見出した。そして、H27年度は、本骨格を鍵電子受容性骨格に用いて近赤外吸収色素を開発した。 近赤外色素の開発では、分子のHOMO-LUMOギャップを狭くする必要があるが、HOMOを上げすぎると空気酸化されてしまうため、空気に安定な近赤外色素の開発にはLUMOを下げることが必要となり、いかに電子受容性骨格を構築するかが重要となる。そこで、2つのBF2基で架橋したジピロリルエタンジオン骨格が著しく高い電子受容性をもつことを活かし、末端にトリアリールアミンを導入したD-A-D型色素を設計し、実際に合成した。カップリング反応を用いてピロールにトリアリールアミンを導入した後、これをピリジン存在下でオキサリルクロリドと反応させることで目的物の前駆体を得た。最後に、これをi-Pr2EtNとBF3・OEt2と作用させることで目的のD-A-D型色素を緑色固体として得ることができた。ジクロロメタン中でのサイクリックボルタンメトリーでは、第一酸化電位と第一還元電位はそれぞれ、EOx = +0.21 V, ERed = -0.78 V(vs. Fc/Fc+)に観測され、本色素が狭いHOMO-LUMOギャップをもつことが示唆された。紫外可視近赤外吸収スペクトル測定では、狭いHOMO-LUMOギャップこれを反映して近赤外領域に大きな吸収帯(λabs = 922 nm, ε = 116,000 M-1 cm-1)を示し、可視光領域にはほとんど吸収を示さないという興味深いスペクトルが観測された。また、量子収率は極めて低いものの近赤外発光特性(λem = 1200 nm, Φ = 0.0001)を示した。さらに、本色素は、中心骨格由来の低いLUMO準位を反映して、高い光安定性が確認された。
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