研究課題/領域番号 |
14J03302
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 航平 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 矮小銀河 / ダークハロー |
研究実績の概要 |
私は、当該研究において矮小銀河ダークハローの非球対称構造に対して動力学モデルを用いた研究を行ってきた。ダークハロー構造、特にその形状を示す軸比を観測的に制限することが出来るのは、この研究のオリジナリティである。しかし、この軸比は星の速度分散の非等方性と縮退関係を持つという問題があり、ダークハローの形状について正しい制限を与えるにはこの縮退問題を解く必要があった。そこでこの非等方性を軸対称質量分布モデルに組み込み、その振る舞いを詳しく調べた。その結果、この縮退関係は「銀河のより外側の視線速度データ」が十分にあれば解くことができることがわかった。 これを踏まえて銀河系及びアンドロメダ銀河の矮小銀河に対して力学解析を行った。その結果、銀河の外側まで観測されている銀河系の矮小銀河では縮退があまり見られず、ダークハローの軸比を決められたのに対して、アンドロメダ矮小銀河は中心部にしか観測データがない為、軸比に制限を与えられない事が明らかになった。今後、アンドロメダ矮小銀河の広範囲における分光観測が必要である事を示している。 また、制限を与えられた矮小銀河の軸比をみると、冷たい暗黒物質理論が予言するダークハローよりも系統的に潰れていることがわかった。よって、理論的パラダイムとなっている冷たい暗黒物質理論に対する新たな問題点を提示した。 また、私は暗黒物質理論の制限、特に温かい暗黒物質の粒子質量に制限を与えることができる新たな手法を考案した。それは、ダークハローの平均面密度という物理量を用いた手法で、この物理量はダークハローの広い質量範囲で一定の値をとる事が観測から明らかになった。このダークハローの平均面密度の普遍性を用いることで、温かい暗黒物質の粒子質量に明確な制限を与えること可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ダークハローの軸比と星の視線速度分散の非等方性の間にある縮退関係は、当該研究において解決すべき問題であった。その問題に対して詳細な解析を行ったことで、その縮退を解く術を見出すことが出来たのは、その後のダークハローの非球対称構造を調べる上で大きな成果であると考える。また、この結果を用いて銀河系及びアンドロメダ銀河の矮小銀河の観測データについて動力学解析を行ったところ、アンドロメダ矮小銀河はデータ不足の問題で縮退を解けない事が明らかになり、今後、その銀河の十分な観測が必要であることを示すことが出来た。 また、この動力学解析の結果から冷たい暗黒物質理論の新たな問題点を述べることが出来た。これは現代天文学において広く支持されている冷たい暗黒物質理論がどこまで正しいのか、という問題に対して重要な知見を得られたと考えている。さらに矮小銀河ダークハローの中心部の密度は、その銀河の星形成史と密接に関係があることを示唆し、これは現在問題となっている「矮小銀河カスプ問題」の解決に重要な結果を示すことができた。 最後に、ダークハローの平均面密度という新たな物理量を用いて暗黒物質理論、特に温かい暗黒物質理論に明確な制限を与えることが出来た。これは当該研究分野において重要な貢献を与え、暗黒物質の正体を知る上で本質的な成果となった。これらは既に学術論文として研究成果が掲載れている。 以上の理由から、当初の計画異常に進展したと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、矮小銀河のより外側の観測データが重要である事がわかった。この結果から、次世代観測装置であるすばる超広視野分光器(PFS)によってどの程度の数の分光データを得ることが出来るのか、特に外側のデータがどの程度獲得することが出来るのかを調べていく。方法としては、モンテカルロシミュレーションを用いてより実際の銀河に近い模擬データを作成し、それをPFSの性能を加味した模擬観測を行い評価する。 また、これまでの研究で示した暗黒物質理論への制限に対する新たな手法は、より多くの矮小銀河のデータがあることでより確実な手法となる。よって、未だ解析を行われていないアンドロメダ矮小銀河や超低輝度矮小銀河の動力学解析を行う。さらに理論モデルに対しても、バリオン効果などの考えらえる様々な効果を加味したより現実的な理論モデルが必要であるため、その理論計算も行う。 一方で、軸対称質量分布モデルよりも一般的なモデルである、3軸非対称質量分布モデルの構築に取り組む。このモデルを構築するには、テスト粒子1つ1つの重力ポテンシャル中での軌道進化を追う必要があり、大きなマシンパワーが必要になる。よって、モデルを計算するのに多くの時間を要する。この問題を軽減する必要があり、その方法の1つとしてMade-to-measure アルゴリズムがあり、それを用いたモデル構築を行う予定である。
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