当該研究の大きな成果として、矮小銀河の恒星分布やダークハロー構造においてその非球対称構造を考慮した動力学モデルを構築し、矮小銀河ダークハロー構造に対する研究を包括的に行ってきた。この研究成果は査読付き論文として学術雑誌に掲載されている。一方矮小銀河は素粒子物理学分野、特に暗黒物質対消滅起源のガンマ線を用いた暗黒物質の間接的検出の観点から非常に注目されている。実際これまでに、矮小銀河ガンマ線観測を通じて対消滅断面積などの暗黒物質の重要な性質に対し様々な制限が得られている。このガンマ線強度の見積もりにはダークマター分布を視線方向に積分した値(J-factorと呼ぶ)に大きく依存する為そのダークハロー構造を正しく理解する必要がある。そこで私はこれまでの矮小銀河の動力学研究を応用し、矮小銀河の非球対称構造を考慮したJ-factorの推定を行い、球対称でのそれと比較を行った。その結果、ダークハローの非球対称性は、J-factorやその値から得られる対消滅断面積の上限値を計算するうえで必ず考慮すべき系統誤差であり、本研究はより現実的で信頼性のあるJ-factor値を得ることが出来た。 矮小銀河ダークハロー構造へのより強い制限には、広範囲で数多くのサンプル取得が必要である。すばる超広視野多天体分光器はそのようなサンプル取得が可能であり、それによって非球対称ダークハロー構造及びJ-factorのより精度の良い推定が可能となる。実際にどの程度サンプル数が増加することで精度の良い推定が可能になるのかを、模擬データを作成して模擬観測をすることでその評価を行っている。現在球対称及び軸対称質量分布モデルにおいては現在その詳細な評価を行っている最中である。初期結果として、少なくとも1000個以上の分光データを得ることが出来ればJ-factor推定の誤差を10%程度に抑えられる事が明らかになった。
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