研究課題
プログラニュリン(PGRN)欠損によってリソソーム機能不全が生じる機構を解析するために、培養細胞を用いて実験を行った。マウス由来のミクログリア細胞株にリソソームの酸性化を阻害する薬物を添加し、リソソームの機能を阻害すると、リソソーム関連タンパク質とPGRN遺伝子の発現量及び免疫反応性は増加した。また、PGRNはリソソームに局在していた。次に、野生型(WT)及びPGRN欠損(KO)マウスの新生子大脳皮質から採取したミクログリア初代培養細胞を用いて、PGRNがリソソームに与える影響を比較した。血清中のPGRNの影響を除くために、無血清中で数日間培養したミクログリアを用いて解析を行ったところ、KO由来のミクログリアはWT由来のミクログリアと比較して、Lamp1遺伝子発現量及び免疫反応性が共に亢進していた。さらに、KO由来ミクログリアはWT由来ミクログリアに比較して、カセプシンDの活性が有意に亢進していたが、リコンビナントPGRNを添加したKO由来ミクログリアでは、有意な活性化が抑制された。一方で、リソソーム機能低下時のPGRNの役割を調べるために、ヒト神経芽細胞株にPGRNを強制発現させ、薬剤でリソソーム機能を阻害した。PGRNを強制発現させた細胞では、対照群の細胞と比較して、リソソーム機能阻害によって誘導される細胞死が抑制された。さらに、PGRNを強制発現させたものでは、対照群と比較して、リソソーム機能阻害によって誘導されるオートファジーの指標であるLC3-2/LC3-1比の亢進が抑制された。以上の結果から、PGRNはリソソームの機能低下時に誘導され、リソソーム機能を維持する働きがあることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、プログラニュリン(PGRN)欠如によって神経変性疾患が発症する機構の解明を目指すものである。特にリソソームにおけるPGRNの役割に注目して研究を行っており、今年度は老齢マウスや培養細胞でPGRNがリソソームに与える影響について解析を行なった。その結果、老齢マウスではPGRN欠如により、リソソームの機能不全が起こっていることを発見し、このことが異常タンパク質の蓄積による神経変性の原因となっていることが考えられた。リソソームにおけるPGRNの役割を調べるために、ミクログリア細胞株及び初代培養細胞を用いて行った実験では、①PGRNはリソソームに局在すること、②PGRNはリソソーム機能低下時に発現が増加すること、③PGRN欠如により、ミクログリアにおいてリソソームの生合成が亢進することが明らかとなった。一方で、リソソーム機能低下時のPGRNの役割を調べるために、ヒト神経芽細胞株を用いて行った実験では、④PGRNはリソソームの機能低下が原因で誘導される細胞死に抑制的に作用すること、⑤PGRNの強制発現によって、リソソームの機能低下が原因で誘導されるオートファジーの誘導が抑制されることが明らかとなった。これらの知見は、PGRN欠如に起因するリソソームの機能低下が神経変性疾患の発症に関与することを示すもので、おおむね順調に研究が進展した成果であると評価できる。
現在までの研究によって、プログラニュリン(PGRN)はリソソームの機能低下時に発現増加し、リソソームの機能調節に関与することが明らかとなったが、具体的な作用点は不明である。そこで今後はリソソームにおけるPGRNの作用点を明らかにするための実験を中心に行う。まず、PGRNがリソソームの基質分解能に影響する可能性を考慮し、培養細胞で検証を行う。PGRNを強制発現させた細胞で、脂質等の基質を指標に、リソソームの基質分解能を解析する。また、リソソームの機能はpHの影響も受ける。そこで、PGRNがリソソームのpH調節に影響する可能性も考慮し、PGRNの発現を増加及び低下させた細胞で、リソソームのpHの測定を行う。一方で、PGRNを過剰発現した神経芽細胞株では、活性型のカセプシンDの蛋白発現量が低下し、PGRN欠損マウス由来のミクログリアでは活性型カセプシンDの蛋白発現量が増加した。そこで、PGRNがカセプシンDの活性調節に関与する可能性を考慮し、蛋白間の相互作用の有無やPGRN存在下、非存在下におけるカセプシンDの酵素活性を解析する。また、リソソームの機能調節作用をもつPGRNの領域を同定するために、GRNペプチドを発現するプラスミドを作成し、リソソームの機能調節に重要なPGRNの領域を決定する。
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