本研究は、19世紀フランス詩人ステファヌ・マラルメの詩学と詩作品の関係を「発話」という観点から統一的に説明する試みで、特にマラルメにおいて重要な「非人称性」という詩の創作理念が、作品においてどのような文体・文学的技法によって試みられたかを言語学の発話論を応用した作品分析によって明らかにすることを目指した。 本年度は前年度に構築した研究の理論的前提を応用・修正しながら、作品分析を集中的に行なった。とりわけ、1887年の『ステファヌ・マラルメ詩集』出版の際に大幅な書き直しが行なわれた作品(「yxのソネ」、「あだな願い」、「施し物」)、同年に雑誌に発表された詩(「三つ折りの詩句」)を分析し、マラルメの当時の文体が演劇的空間の現出を目指すものであったことを論じた。「yxのソネ」についての考察(「あだな願い」「施し物」の分析も含む)は、日本フランス語フランス文学会秋季大会にて口頭発表したが、審査を経た後に学会誌への投稿が許され、その論文は現在査読中である。「三つ折りの詩句」に関する考察も現在、論文としてまとめているところである。 上記の論考において、各詩作品の文体的・発話論的特徴がマラルメの当時の非人称的舞台論と関連する可能性を示唆したが、当初予定していたほど綿密に論証するには至らなかった。この点が本年度の大きな反省点である。マラルメにおける「非人称性」概念と詩作における問題の広がりを歴史的に跡付ける作業と、80年代の非人称的舞台論の詳細な分析作業を積み残した結果となったが、この点は今後の研究課題としたい。ただ、マラルメの詩作品そのものの分析を通して、マラルメの文体的工夫を跡付けることができた点は、様々な読解が提出されてきたマラルメの詩に新たな光を投げかける結果となり、ひとつの成果であると言えるだろう。
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