研究実績の概要 |
本研究課題では、タイミング行動に対する小脳皮質不活性化の影響を調べる実験および同行動に応答する小脳スパイク活動の記録・解析を実施した。短時間(1秒以下)のタイミングには、スピーチなどで用いる特定のイベントのタイミングを同定する絶対的なタイミング(絶対的タイミング)と、音楽のリズムのような等間隔の相対的間隔に基づくタイミング(相対的タイミング)があるが、小脳皮質不活性化の実験では小脳がどちらのタイミング処理に寄与しているのかを調べた。ラットの小脳を薬理的に不活性化させた条件と偽薬を投与した条件の間で行動を比較したところ、絶対的タイミングを用いて遂行する課題では不活性化の影響が有意に見られ、相対的タイミングを用いる課題の成績にはほとんど影響が見られないことが分かった。この成果をまとめた実験論文は国際的な専門誌に投稿し、掲載された(Yamaguchi & Sakurai, 2016)。また、小脳の神経細胞はどのような活動パターンによって自発的運動のタイミングを処理しているのか、という疑問を解決するために、情報処理を行う小脳皮質から入力を受けて実行系に出力する深部小脳核のスパイク活動を測定した。スパイク活動記録では、複数の個体から小脳皮質の投射先である深部小脳核における多点電極を用いた神経細胞記録に成功した。解析の結果、予測された時間間隔終了時に一時的に活動が抑制されることが確認され、このことから、ラットは深部小脳核の急激な活動の抑制によって予測する時間間隔の停止を処理していることが示唆された。現在この成果を論文にまとめて国際誌へ投稿する準備に至っている(Yamaguchi & Sakurai, 投稿予定)。これらの結果は「小脳が関係する認知活動の神経メカニズムの解析」という題目で、山口健治大学院生の博士学位論文にもまとめられた。
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