アインシュタイン方程式の厳密解であるブラックホール解は重力理論の理解にとって重要だけでなく、量子重力理論における素粒子理論やAdS/CFT対応を通した物性理論への応用、重力波観測を通した宇宙モデルの選別などといった幅広い応用力からも注目されている研究テーマでもある。近年数値マシンの性能向上とそれに伴った数値計算技術の発展により非線形偏微分方程式であるアインシュタイン方程式が様々な状況において解くことが可能となり、その結果多くの興味深いブラックホールの性質が明らかとなってきている。本研究課題の目的は数値的アプローチと相補的となる、ブラックホール物理学への新たな解析的手法である高次元極限法を確立し応用していくことである。高次元極限法は時空の次元Dに対してアインシュタイン方程式を1/D展開により解析する手法であり、それまで数値的にのみ知られていたブラックホールの性質に対して解析的な結果を与えることに成功している。採用第1年度と第2年度では高次元極限法を真空のアインシュタイン方程式に適用する基礎を線形・非線形両側面において確立させた。そこで採用第3年度では、それらの結果を真空でない重力理論へと応用し高次元極限法を重力理論解析手法として一般的なものへと昇華させることに成功した。具体的には電荷を帯びたブラックホールへの高次元極限法の適用法を確立させ、また数値的にのみ知られていたブラックリング解の弾性的不安定性を世界で初めて解析的に証明することに成功した。
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