精密軌道決定を行うためには,太陽輻射圧をはじめとする非重力外乱の精密計算が必要となるが,様々な形状の宇宙機が存在するため,一般的な計算手法は存在していない.また,高精度な非重力外乱計算には膨大な計算時間がかかってしまうため,計算コストの削減も求められている.さらに,モデル化のために与えられた宇宙機の形状・反射特性情報と軌道上に打ち上げられた宇宙機の実際の情報の間には必ず差異が存在するため,フライトデータを基にモデル補正を行う必要がある. このような,高精度かつ低計算コストかつモデル補正も可能となるような非重力外乱計算手法を構築するため,申請者は「事前計算テンソルを用いた太陽輻射圧計算手法」を考案した.提案手法では,計算コストの高い陰影計算や反射特性計算を事前に行い,その情報を形状に関するテンソルと,反射に関するテンソルとしてそれぞれ圧縮保存しておき,計算時は,それら事前計算テンソルを用いることで,高精度かつ高速に太陽輻射圧を求めるということを行う.この事前計算テンソルによって,形状,反射特性,太陽情報という三つの要素を分割することができるため,フライトデータを利用した光学特性推定を行うことも可能となっている. 本年度は,提案手法の実用化に向けて,事前計算テンソルを生成する高速並列演算アルゴリズムの開発や,生成時に用いる基底関数の研究などを行った.またシミュレーションにより,提案手法が従来手法よりも精度・速度両面で優れた手法であると証明した.実用例の一つとして,深宇宙探査機PROCYONにより実際に観測された姿勢運動を,提案手法を用いて表現できるか否かの検証も行い,提案手法の有効性を示すことができた.光学特性推定に関して,一部課題は残るものの,従来手法よりも優れた手法を提案することができており,今後の宇宙開発に貢献できる非重力外乱計算手法を構築できたと考えている.
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