研究課題/領域番号 |
14J03424
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森本 勝大 神戸大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | ポリ尿素 / 強誘電性 / 焦電性 / 構造評価 / 薄膜 / 赤外線センサ / 高分子 |
研究実績の概要 |
ポリ尿素薄膜に熱処理プロセスを導入することで、結晶性・分子配向性が向上に成功した。ポリ尿素薄膜作製後、外部から熱処理および電界を加えることで、薄膜の結晶性・分子配向性の向上することを実験的に解明した。熱処理前後のポリ尿素薄膜では、熱処理後は熱処理前に比べ1.2~1.5倍の焦電性向上が確認できた。過去論文ではポリ尿素の強誘電性は非晶性構造にて発現すると報告されているのに対し、本研究では結晶性・配向性の向上が焦電・圧電特性を向上させた。これは最終的な赤外線センサ素子構造の最適化に向け大きな薄膜作製指針となり、重要な基礎特性結果といえる。加えて、赤外線センサ性能を電圧感度測定により算出すると、焦電係数に対応する電圧感度が得られた。ポリ尿素薄膜を用いた赤外線センサの感度測定例は過去になく、本研究独自の結果と言える。
ポリ尿素材料の利点である耐熱性を評価するにあたり、高温環境制御可能な装置系の設計・構築を試みた。しかし装置系の使用温度域が非常に高温かつ特注品の使用を検討していたため、設計した装置作製に難航した。そのため研究計画を一部変更し、特注品を研究室既存の装置と併用することで耐熱性測定を試みた。その結果、焦電係数は高温曝露後においても保持率85%という熱安定性を示し、圧電定数の温度依存性を測定すると200℃以上においても圧電定数を保持した。これは従来の材料を大きく上回る結果であり、本研究で注目したポリ尿素の熱安定性に対する優位性を示す結果となった。
上記の成果は、熱処理プロセス導入による薄膜構造変化と薄膜内部電荷の影響、構造変化に伴う焦圧電性変化と相関性、ポリ尿素の耐熱性、と段階的に学術論文や学会発表を通して報告した。計画書では国際学会での発表や学術論文の複数投稿は次年度の予定であったが、実験が早く進展し十分な結果が得られたため次年度分の学会発表・論文投稿を前倒しで進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標はポリ尿素を用いた高結晶・高配向薄膜の作製とそれを用いた電気特性の解明である。本年度は薄膜作製プロセスに熱処理や電界印加という外場を加えることで、目的の高結晶化に近づくことができた。さらに結晶性と電気特性の相関関係を明らかにし、今後の構造制御の指針を得ることができた。また、ポリ尿素の長所となる耐熱性という点に関して、従来材料では成し得ない200℃以上での圧電性保持という優れた性能を得ることができた。
研究成果は国内学会5件、国際学会2件、学術論文1報として外部での発表を行い、研究会ではベストプレゼンテーション賞の受賞に繋がるなど、十分な成果を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究目的にのっとり、高感度な赤外線センサの開発を目指す。高感度化にはポリ尿素薄膜の焦電係数の向上が必要であるが、作年度に結晶性の向上が焦電係数増加につながるという指針を得たため、これに準ずる形で薄膜構造制御を行う。
目的の一つである液晶材料に関して、液晶は固体とは異なる特徴を持ちこれを活かすことで、新たな応用展開が期待できる。しかしながら、ポリ尿素への液晶性導入は材料全体の自発分極量低下を招くという結論に至った。この問題を根本的に解決しなければデバイス応用は困難であると考えられる。そこで、今後は液晶性導入にこだわらず、異なった化学構造を持つポリ尿素材料に注目し高感度なセンサ開発を目指す。本研究の中で液晶性の導入が嵩高い化学構造を招き、単位体積当たりの双極子を減少させることがわかった。これを逆手に取り単位体積当たりの双極子量が増加するよう、分子鎖長の短縮や嵩高い官能基の削減などの方策をとることで、ポリ尿素薄膜全体の自発分極量を増加させる。
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