研究実績の概要 |
ルテニウム均一系水分解触媒, ポルフィリン系光捕集分子, およびフラーレン電子受容体を共有結合により連結した分子を合成した. 電子受容体としてビオローゲン, 犠牲酸化剤として過硫酸ナトリウムを用い, 連結分子による光駆動水分解を検討した. その結果, 白色光の照射により, 触媒回転数7で酸素が発生することを確かめた. この連結分子の時間分解スペクトルを水系で測定した結果, 次の過程が確かめられた. (1) ポルフィリン系光捕集分子による可視光の吸収により電荷分離状態を与える. (2) フラーレン部位に生じたラジカルアニオンはビオローゲン酸化剤により酸化される一方, (3) ポルフィリン系色素上に生じたラジカルカチオンはルテニウム均一系触媒により還元される. このようにしてホールが触媒中心に蓄積することで, 2つの水分子が1つの酸素へと酸化されると同時に4つのプロトンが放出されたと考えられる. このように, ポルフィリン系色素を光捕集分子に, フラーレンを電子受容体に用いた均一系人工光合成の構築を実証した (論文投稿準備中).
ポルフィリン系増感色素を光捕集系に, ルテニウム触媒を酸素発生中心とし, これらを, ホスホン酸アンカー部位を介して酸化チタン/FTO基板へ吸着させることで分子系電極を調整した. この電極を光アノードとし, 塩化銀/銀参照電極および白金対極と組み合わせ3極系セルを構築し水系にて白色光を照射することで, 光電流の増強を観測した.
フタロシアニンをメソゲンとした銅フタロシアニン-窒素内包フラーレン連結分子を合成し, その溶液ならびに自己集積体の電子スピン状態をESRにより評価した. その結果, 窒素内包フラーレン由来のゼロ磁場分裂シグナルが銅原子の電子スピンと強く分子内相互作用することを観測, 実証できた(論文投稿準備中).
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今後の研究の推進方策 |
スウェーデン・ウプサラ大学の研究グループとの共同研究により, ルテニウム触媒-ポルフィリン-フラーレン連結分子においてピコ秒からナノ秒で進行する光過程の詳細を検討中である. その結果を踏まえ, 各コンポーネント間の電子カップリングを最適化した次世代連結分子を設計・合成し, より高い効率を有する分子系人工光合成系の構築を目指す.
分子触媒と分子増感剤を酸化チタンn-型半導体上に共吸着させることで水分解を分子により可視光駆動する不均一系人工光合成系を, 引き続き検討する. 昨年度の検討により, 有機色素を無機半導体上に吸着させて水系で光電気化学測定を行う場合には, 色素間相互作用の増大により色素の第一酸化電位や0-0遷移エネルギーが低下し, 水分解の光駆動が困難になることが明らかになった. そこで, 以後の分子設計では, 環外周部への置換基の導入により, 水系における分子間相互作用を低減させる配慮を行う. また, ポルフィリン系色素励起状態から無機半導体の導電帯への電子注入と, 水分解触媒からポルフィリン系色素のラジカルカチオンへの電子移動の両方を速やかに実現するのは, 各電子移動過程のドライビングフォースが比較的小さいことから困難であることが昨年度の検討から分かった. そこで, 今年度は, よりHOMO-LUMO遷移が大きな環縮小ポルフィリンを母骨格に用いた増感色素を検討する. また, 電子注入を促進するとともに無機半導体導電体上の電子と色素ラジカルカチオン間の電荷再結合を抑制する観点から, プッシュ-プル型の電子構造を導入した増感色素を検討する. このように, 可視領域における光捕集能の改善, 界面電子移動の最適化により, 可視光を有効利用した高効率人工光合成系の構築を目指す.
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