研究課題/領域番号 |
14J03491
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三澤 亮太 京都大学, 情報学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | Helmholtz方程式 / Green函数 / 境界積分方程式法 / 高速多重極法 / 固有値 / 共鳴周波数 |
研究実績の概要 |
本年度は、支配方程式がHelmholtz方程式であり境界において斉次Neumann条件を満たす2次元帯状領域(板)における板波の問題を取り上げ、そのGreen函数に対する高速多重極法の開発とそれを応用した数値解析を行った。 (1)Green函数に対する高速多重極法:考えるGreen函数は、板中の点波源とその点波源の板の境界に関する無限個の鏡像を波源とする基本解の重ねあわせで書ける。この事実を利用し、Green函数に対する高速多重極法を、通常の(基本解に対する)高速多重極法における計算領域を鏡像にまで拡張することで定式化した。得られた手法の計算量は、通常の高速多重極法の計算量と同じであり効率が良い。得られた手法を用いて実際に板波の境界値問題を解き、その高速さと精度の良さを確かめた。また、共鳴現象やストップバンドの再現もできた。今回は2次元問題のみを扱ったが、以上の手法の3次元問題への拡張は容易である。 なお、Rayleighのアノマリと呼ばれる特定の周波数ではGreen函数が発散し上記手法を用いられない。この場合においても正しく問題を解けるように修正した解法を検討し実装したが、この修正解法は必ずしも有効ではなかったため、Rayleighのアノマリにおける解法の開発は今後の課題である。 (2)共鳴周波数の数値的特定:ところで、共鳴現象やストップバンドは考える境界値問題の固有値に関連することが知られており、これらの現象を応用するためには固有値(共鳴周波数)の数値的特定が重要である。そこで、(1)で開発した手法と非線形固有値問題の数値解法の一つであるSakurai-Sugiura法を組み合わせ、共鳴周波数を数値的に特定する固有値解法を開発した。この固有値解法を用いて実際に共鳴周波数を数値的に特定できた。
以上の成果に関するいくつかの学会発表を行った。外国誌への投稿論文は現在準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のうちHelmholtz方程式に関する部分はほぼ実行できており、十分精度良く高速な数値解法を得ることができた。Rayleighのアノマリにおける処理が課題として残されたが、Rayleighのアノマリの発生位置は既知でありまた離散的に起こり、さらにはそれに非常に近い場合でなければ精度等に悪影響はないことを数値的に確かめたため,Rayleighのアノマリにおける特別な処理はさほど重要でないと考えられる. また,当初の研究計画以上の成果として,得られた数値解法を用いてストップバンドなど物理的に興味深い数値計算結果を得ることができたこと、さらには得られた数値解法を用いて共鳴周波数を数値的に特定できたことなどの成果がある。 しかし、板波の解析に関する高速多重極法の開発が2次元問題に限定されていること、またこの研究成果に基づく論文の執筆が次年度送りになったことを考慮して、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
支配方程式がHelmholtz方程式である場合においてRayleighのアノマリにおける処理が課題として残されたが、Rayleighのアノマリにおける処理の考察は,達成度の評価に示した理由から一旦保留とし、今後は支配方程式が時間調和なNavier-Cauchyの式である、動弾性問題のGreen関数を用いた板波の問題に対する高速解法を検討する。動弾性問題の場合、Helmholtz方程式の場合と異なり、Green函数は単純に鏡像を点波源とする基本解の重ね合わせでは表せない。そこで、薄板における動弾性問題のGreen函数に対する効率の良い多重極展開公式を導出し、その展開公式に基づいた高速多重極法を検討する。
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