本研究では、廃水を膜によってろ過する浄化プロセスにおける膜の目詰まりに対し、生物学的な制御を行うための基礎的な研究を行う。廃水の膜ろ過プロセスは工学的な手法によってこれまで制御されてきたが、活性汚泥中の微生物活性を制御することで膜の目詰まりを抑制するための知見は乏しい。本研究では、これまでに膜の目詰まりの原因物質となる有機物の分解細菌の探索を行い、多様な呼吸酵素を持つため廃水中において高い代謝能力を示すことが期待される脱窒細菌Paracoccus denitrificansを選定した。廃水処理プロセスにおいて細菌を制御する際には、細菌の付着性が重要であり、P. denitrificansは廃水処理場で粒子に付着した状態で存在することが報告されているが、その付着性を制御するための知見はこれまでに無かった。そこで付着性に関する知見を得るため、P. denitrificansの付着性に重要な遺伝子を探索した結果、biofilm-associated protein A (bapA)をコードする遺伝子を新たに同定した。さらに、BapAタンパク質はI型分泌装置によって細胞外へ輸送される菌体表層の巨大なタンパク質であり、BapAが菌体の疎水性に寄与することにより、疎水性相互作用を介してP. denitrificansは基質表面へ付着することを明らかにした。本成果は、疎水性の高い基質を用いることによりP. denitrificansを効率的に基質へ固定して廃水処理プロセスへ導入し、制御できる可能性を示唆している。
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