大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行われているATLAS及びCMS実験によって、素粒子標準模型において唯一未発見であったヒッグス粒子が発見された。このヒッグス粒子の性質を精密に測定することが、標準模型で予想される通りのヒッグス粒子なのか、もしくは標準模型を超えた物理を示唆するのか、現在素粒子物理学において最も重要な研究テーマの一つとなっている。 本研究は、ヒッグス粒子が二つのWボゾン、さらに二つのレプトンと二つのニュートリノに崩壊するモード(H→WW*→lnln)を用いて、ヒッグス粒子の生成と崩壊比を精度良く測定するものである。この崩壊モードでは終状態に二つのニュートリノを含むために不変質量の再構成が困難で、予想される背景事象を正確に見積もることが重要となっている。そこで、主要な背景事象であるダイボゾンと呼ばれる2ボゾン生成事象、Wとグルーオンもしくはクォークが随伴生成されるW+jets事象の見積もり方法の開発を行い系統誤差の削減をおこなった。また、採用第一年度目はヒッグス粒子のGluon Fusion 生成過程を主な研究対象とした。 LHC-Run1における全てのデータを用いて解析を行い、ヒッグス粒子の信号強度(=信号の観測量/標準模型で予想される量)を約20%で測定した。これは、同様にLHC-Run1のデータ及びH→WW*→lnln崩壊モードを用いた先行研究に対して約30%の測定精度の改善を示すものである。得られた信号強度は誤差の範囲で標準模型の予想と無矛盾なものであった。
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