研究課題/領域番号 |
14J03594
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鴻池 遼太郎 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / 光ナノ共振器 / 光転送 / 断熱的変化 |
研究実績の概要 |
フォトニック結晶上に形成した微小共振器(光ナノ共振器)は、光をその波長の3乗程度の微小領域に強く閉じ込めることができるため、光を蓄積する光バッファメモリや、光と物質との相互作用を利用した量子情報処理デバイス等への応用が期待されている。これまで、単一の光ナノ共振器に対して光パルスを動的に捕捉/解放するといった1ビットの光機能が実現されてきたが、一方で複数の光ナノ共振器を自在な位置に形成し、それらの間で自在な光のやりとりを実現できれば、複数ビットを持つ光バッファメモリや、光パルスのルーティング等の新規光デバイスの実現が期待される。今年度においては、その第一段階として、複数の光ナノ共振器を結合させ、それらの間で任意のタイミングで光を転送するといった操作の実証を行った。具体的には、まずチップ上で光の波長の50倍以上離れた位置に2つの光ナノ共振器(共振器A, Bとする)を形成し、またそれらを相互に接続するための光導波路を形成したフォトニック結晶構造を設計・作製した。共振器A, Bの共振周波数は互いに異なる状態に設定した。次に、片側の共振器(共振器A)に光を捕捉させ、共振器の光寿命以内の任意のタイミングで共振器Aに対して制御光パルスを照射した。この制御光パルスにより共振器Aの共振周波数が変調され、共振器Bの共振周波数と交差することで、共振器A内に捕捉されていた光はモードの断熱的変化の影響を受け、共振器Bへと転送される。実験においては、時間分解測定から、およそ60%の効率で共振器AからBへと光が転送される様子が確認され、また制御光パルスの照射タイミングを変化させることで任意タイミングでの光転送操作が可能であることも確認した。本成果により、光ナノ共振器間の結合状態に対して簡便な操作を行うことで光転送が可能であることが実証でき、大規模な結合系に対する光操作への展開も期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画においては、本年度は、光ナノ共振器間の結合の強度に対する動的な制御方法の実証を行った後に、光ナノ共振器間の任意タイミングでの光転送の実証を行うことを予定していた。一方で、本年度においては測定系の構築やサンプル設計の都合上、後者に関して2つの光共振器間での任意タイミングでの光転送の実証を先に行った。この実証においては、原理から予想される通りの結果が得られており、順調に進展していると考えられる。一方で前者の実証においても、既にサンプルの作製は完了しているため、同様の測定技術を用いて今後実証できると考えられており、全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、今回構築した測定系を用いて、複数の光ナノ共振器間の結合強度に対する動的な制御や、より高効率な光転送の実証を行う。具体的には、3つの光ナノ共振器を互いに結合させたフォトニック結晶構造(既に作製済み)を用いて、そのうち1つを制御用の共振器、2つを光保持用の共振器に利用する。これにより、光を保持する共振器と変調を受ける共振器を物理的に分けることで、より多彩な光操作や、変調による悪影響を受けない高効率な光転送の実証を目指す。これが実証できると、次は大規模に集積化可能な光操作の実現を目指す。具体的には、制御光パルスを外部から照射する形ではなく、チップ上に面内方向にp-i-n接合を形成し、キャリアを電気的に注入することによって光共振器の動的な変調を行う。これにより、大規模に結合した複数の共振器間での光のやりとりを制御するための基盤が整うものと期待される。
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