本研究では、全国の自治体が現に展開している文化政策について、他の政策分野との関連性に留意しつつ総合的に把握し、規範論に終始することなく、各自治体が現実的にとりうる政策モデルを得ることを目的としてきた。 平成28年度は、政府主導のもと全国の自治体で策定された地方創生総合戦略における文化政策の位置づけと有効性に焦点を当て、事例調査と統計データ分析を行った。 事例調査では、文化ホールを拠点とした住民主体の文化活動を地方創生戦略の中に位置付けている茨城県小美玉市を取り上げ、現地でのヒアリングを中心に詳細に調査した。同市の文化ホールでは、住民劇団など地域の若者がかかわることのできる様々な文化活動が住民自身の手で企画、実施されている。これらの活動にかかわる若者たちへのヒアリングから、彼らが地域への強い愛着を持つようになっていることが確認できた。 この現地調査での知見を踏まえ、地方創生戦略の柱のひとつである人口減少対策に関し文化政策がどの程度有効なのかを検証するため、自治体の文化関係経費の多寡と人口移動の関係についての統計的分析を試みた。人口移動に関する重力モデルに文化関係経費の影響を加味した試行的な分析では、若干ではあるが、人口流入に文化関係経費が正の影響を与えていることを示唆する結果が得られた。 これらの研究の経過及び成果については、国内学会において口頭発表をするとともに、スペインで開催された国際学会でも口頭発表を行った。統計分析に関しては、モデルや結果の解釈の妥当性に疑問が残り、さらなるモデルの精緻化やデータの収集が課題として残された。 上記のほか、茨城県文化審議会における茨城県文化振興計画策定への協力による参与調査により自治体文化芸術政策の形成過程についての知見を深めるとともに、他分野の研究者との共同研究として、地方自治体における災害教訓伝承の取り組みに関する研究に取り組んだ。
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