研究課題
金星は固有磁場を持たない惑星である。超高層大気が太陽風と相互作用し、大気成分が宇宙空間へ流出している。先行研究から太陽風パラメータや太陽活動度に応じて金星からの酸素イオンの流出量が変化することが報告されているが、太陽風パラメータ及び太陽活動度を考慮した研究、特に対流電場強度を扱って解析した研究はまだなかった。そこで、欧州の探査機Venus Express搭載のイオン質量分析器(IMA)の8年間の観測データを用い、金星から流出する酸素イオンの流出量と太陽風パラメータ(動圧や対流電場強度)や太陽活動度(太陽紫外線フラックス)との関係性を統計的に調べた。その結果、動圧、対流電場強度、太陽紫外線フラックスが上昇するほどイオン流出量は上昇するが、太陽活動が上がるとreturn flow(流出したイオンが金星方向へ戻る流れ)も増大することが分かり、流出量の見積もりには流出して行くイオンだけでなく、return flowの影響を考慮しなくてはならないということが明らかになった。非磁化惑星である金星においては、太陽風は大気流出を引き起こすだけでなく、金星重力圏にとどまった熱圏や電離圏の粒子にも影響を及ぼす可能性がある。そこで、ひさき衛星の観測データを用い、酸素II(83.4 nm), 酸素I (130.4 nm), 酸素I(135.6 nm)の10分平均の発光強度の時間変動について調べた。太陽紫外線放射への依存性を取り除いた変動成分の周波数解析を行った結果、それぞれの期間にいくつかの特徴的な周期成分が検出された。これらの周期変動は熱圏の酸素原子または光電子の密度変動に起因すると考えられ、これらの周期変動の要因の候補として金星中層大気から熱圏へ伝わってきたプラネタリー波や重力波、または太陽風の影響が挙げられる。これら3つの可能性を切り分けるにはまだ情報が足りず、今後さらなる観測が必要である。
2: おおむね順調に進展している
固有磁場を持たない金星超高層大気と太陽風の相互作用を粒子観測器や光学系観測器を用い、金星からのイオン流出や金星超高層大気中の大気光について調査した。Venus Expressに搭載された粒子観測器を用いた酸素イオン流出の研究において、イオン流出量と太陽風や太陽活動度の関係が明らかになった。また、ひさき衛星に搭載された光学系観測器を用いた研究においては、金星超高層で発光する大気光の周期的変動を発見した。原因の特定には至らなかったものの、大気波動や太陽風といった金星の中層大気と高層大気の結合に関わる結果が得られたと考えられる。これらの研究は当初の計画とは少し違っているが、論文も執筆しており、おおむね順調であると言える。
Venus Expressの8年間の観測データにより、金星からの酸素イオン流出量と太陽風や太陽活動の関係性が統計的に明らかになった。特に、太陽活動が活発になるほどreturn flowが増加するメカニズムはまだ分かっておらず、イオンの分布関数を調べることで、物理的に何が起こっているのかを調べることが今後の課題である。また、2014年のひさきの金星大気光観測結果からは、大気光の周期変動の要因の特定には至らなかった。2015年度もひさきは金星大気光観測を行う予定であり、周期変動の原因特定を目指す。
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