研究課題
ニチニチソウは、VinblastineやVincristineなどの抗がん剤となるTerpenoid indole alkaloid(TIA)をはじめとして、様々な二次代謝産物を生産することで著名な薬用植物である。ニチニチソウのTIA合成は、一連の合成過程が一つの細胞内で完結せず、茎組織や葉組織において葉肉細胞、表皮細胞など様々な細胞を経由して進むことが報告されている。特に異形細胞(Idioblast cell)で重要なTIA代謝過程が進み、合成された最終産物が異形細胞の液胞に蓄積されると考えられているが、これらの細胞内や細胞間における二次代謝の分子機構は十分に理解されていない。本研究では、ニチニチソウ茎組織における細胞レベルでのアルカロイドの分布を解明するために、一細胞質量分析技術や質量顕微鏡を用いたメタボローム解析を試みた。その結果、CatharanthineやAjmalicineなど、これまで想定されていなかったTIAが異形細胞に局在していることが明らかになった。また、一細胞質量分析技術を用いて葉原基の異形細胞に局在する代謝物の解析を進めたところ、茎組織の異形細胞と異なるアルカロイドの蓄積が見られた。この結果は、これまで同じ種類の異形細胞と考えられてきた細胞でも、組織によって代謝分化が変化している可能性を示唆している。さらに、TIA代謝で重要な役割を果たしていると考えられる異形細胞を中心に、皮層細胞、異形細胞、茎組織全体のそれぞれで、次世代シークエンサーを用いたRNA-seq解析を行った。これまで報告されているTIA合成酵素遺伝子の検出と共に異形細胞特異的に発現している遺伝子の候補を複数挙げることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本年度において、ニチニチソウの各細胞に局在するTIA産物を明らかにし、各細胞レベルでのRNA-seqデータの取得にも成功した。さらに、茎組織の細胞だけではなく、葉組織の異形細胞におけるTIA産物の局在の解明にも着手できたため。
今年度は茎組織におけるTIA産物の局在を明らかにしたので、今後、植物の地上部におけるTIA代謝のしくみを明らかにするために、葉組織においても細胞レベルでのTIA局在の解明を進める予定である。さらに、今回のメタボローム解析によって異形細胞で完結すると示唆されたTIA代謝経路に関して調べるために、ラベル化された前駆物質を一つの異形細胞に与えて、代謝フラックス解析を行う予定である。細胞レベルにおけるRNA-seq解析の結果により、異形細胞で特異的に発現しているTIA合成酵素やトランスポーターの候補遺伝子を挙げることに成功した。次年度は、この候補遺伝子の機能解析を進める予定である。また、TIA産物は最終的に液胞へと蓄積されると考えられているので、各細胞の液胞を単離しプロテオーム解析をすることによって、オルガネラレベルでの代謝機構の解明も目指す。
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