研究課題/領域番号 |
14J03616
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 浩太郎 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 二次代謝 / アルカロイド / メタボロミクス / トランスクリプトミクス / 薬用植物 / 異形細胞 |
研究実績の概要 |
ニチニチソウは、VinblastineやVincristineなどの抗がん剤となるTerpenoid indole alkaloid(TIA)をはじめとして、様々な二次代謝産物を生産することで著名な薬用植物である。ニチニチソウのTIA合成は、一連の合成過程が一つの細胞内で完結せず、葉組織や茎組織において葉肉細胞、表皮細胞など様々な細胞を経由して進むことが報告されている。特に異形細胞(Idioblast cell)で重要なTIA代謝過程が進み、合成された最終産物が異形細胞の液胞に蓄積されると考えられているが、これらの細胞内や細胞間における二次代謝の分子機構は十分に理解されていない。 本研究では、ニチニチソウ葉組織と茎組織における細胞レベルでのアルカロイドの分布を解明するために、一細胞質量分析技術や質量顕微鏡を用いたメタボローム解析を試みた。その結果、CatharanthineやStrictosidineなど、これまで想定されていなかったTIA産物が異形細胞に局在していることが明らかになった。また、一細胞質量分析技術を用いて葉原基の異形細胞に局在する代謝物の解析を進めたところ、展開した葉組織や茎組織の異形細胞と異なるアルカロイドの蓄積が見られた。この結果は、これまで同じ種類の異形細胞と考えられてきた細胞でも、組織もしくは発生ステージによって代謝分化が変化している可能性を示唆している。 さらに、TIA代謝で重要な役割を果たしていると考えられる異形細胞を中心に、皮層細胞、異形細胞、茎組織全体のそれぞれで、次世代シークエンサーを用いたRNA-seq解析を行った。これまで報告されているTIA合成酵素遺伝子の検出と共に異形細胞特異的に発現している遺伝子の候補を複数挙げることにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究においてニチニチソウ葉組織の各細胞に局在するTIA産物を明らかにした。葉組織のデータとこれまでの茎組織のデータを合わせることによって、ニチニチソウの地上部における細胞レベルでのメタボロームデータの基盤の構築を完了した。さらに、茎組織のTIA産物の細胞局在を明らかにした論文を米国アカデミー紀要(PNAS)で発表もできたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は前年度の茎組織のデータに加え、葉組織におけるTIA産物の局在を明らかにした。今後、植物の地上部におけるTIA代謝のしくみを明らかにするために、葉組織においても細胞レベルでのRNA-Seq解析を進める予定である。さらに、今回のメタボローム解析によって異形細胞で完結すると示唆されたTIA代謝経路に関して調べるために、ラベル化された前駆物質を一つの異形細胞に与えて、代謝フラックス解析を行う予定である。細胞レベルでのより詳細なTIA代謝を調べるために、細胞を長時間培養・観察できるマイクロデバイスの作成にも着手する。 これまでの細胞レベルにおけるRNA-seq解析の結果より、異形細胞で特異的に発現しているTIA合成酵素やトランスポーターの候補遺伝子を挙げることに成功した。次年度は、この候補遺伝子の機能解析を進める予定である。 また、TIA産物は最終的に液胞へと蓄積されると考えられているので、各細胞の液胞を単離しプロテオーム解析をすることによって、オルガネラレベルでの代謝機構の解明も目指す。
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