研究課題/領域番号 |
14J03643
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
端 昭彦 京都大学, 工学研究科附属, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 水環境 / 健康関連微生物 / 腸管系ウイルス / FRNAファージ / 感染力評価 |
研究実績の概要 |
研究の背景 FRNAファージは水のウイルス汚染や水処理過程でのウイルス除去・不活化効率を代表する指標微生物として有望視されている.FRNAファージはGIからGIVの4つの遺伝子型に分類されるが,それぞれ異なる特性を持つ.昨年度はFRNAファージについて,各遺伝子型を感染力ベースで定量的に検出する手法を確立した.本年度は下水試料や河川水,湖水試料を広く収集し,確立手法を適用するとともに,感染力評価手法の存在しないノロウイルスや他の腸管系ウイルスの検出を試みた. 研究の成果 滋賀県内の3下水処理場における流入水試料,処理放流水試料,京都府内4地点での河川水試料,琵琶湖15地点での湖水試料を毎月収集した.感染力を保持したFRNAファージについて,流入 (未処理) 下水の影響が強いと考えられる試料においては,GII及びGIII型が優占的に検出される傾向にあった.一方で処理下水の影響が強いと考えられる試料においては,GI型が優占的に検出される傾向にあった.また,RT-qPCRで測定した総ファージ数に対する感染性ファージ数の比は,夏季に有意に増加した.これより,水温上昇や日射強度の増加がウイルスの不活化に大きく影響することを示唆された.夏季にはGI型が特に不活化しやすく,GII型が不活化しにくい傾向にあった.また,下水処理の前後では総ファージ数に対する感染性ファージ数の比はほぼ一定であったことから,下水処理におけるウイルス減衰の主要因はウイルスの物理的除去であると考えられた. 検出対象としたウイルス群の中では,いずれの試料群においてもPepper mild mottle virus (PMMoV) が高頻度かつ高濃度で検出された.PMMoVは水環境のヒトウイルス汚染指標として有望視されている.しかしながら,他の腸管系ウイルスとPMMoVの検出濃度には関連は見られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,下水,河川水,湖水等の環境水試料からのウイルス検出及び,マウスノロウイルスの不活化評価を予定していた.環境水試料からのウイルス検出については,下水,河川水,湖水それぞれを月に1度程度の頻度で採水し,ウイルス検出を進めることができた.特にFRNAファージの各遺伝子型に着目することで,水温,日射等の因子によりGI型が不活化しやすく,GII型が不活化しにくいことを見出した.また,下水処理過程においてはGI型が除去されにくく,GIII型が除去されやすいことを見出した.これらはノロウイルスの不活化率推定手法を構築する上で重要な情報となりえる.以上より,環境試料からのウイルス検出については順調に進展していると評価できる.一方で,マウスノロウイルスの不活化評価については未達成であり,今後はこれに優先的に取り組んでいく必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,マウスノロウイルスを用い,環境試料中での水温や日射等がノロウイルス不活化に与える影響を評価していく.FRNAファージ各遺伝子型についても同様の評価を試みることでノロウイルスの環境ストレス耐性を相対的に明らかにする.得られた情報をもとに,収集した環境試料についてノロウイルスの不活化率を推定し,これとPCRによるノロウイルス定量値を用いることで感染力を有したノロウイルス数を推測する.得られたノロウイルスの感染力データを用い,定量的微生物感染リスク評価 (Quantitative Microbial Risk Assessment: QMRA) を試みる.リスク評価のシナリオとして,浄水処理後に飲用,遊泳等による直接飲用など複数を設定する.また,季節変化や降雨などに由来する水質・気象条件に応じたリスク値の変化を考察する.ここで得られた結果に基づき,水利用に際し,適切な環境条件や処理条件について提言を試みる.
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