本研究は、中世ドイツの神学者マイスター・エックハルト(1260頃-1328)の思想に関して、哲学的・形而上学的側面を中心に検討を行い、そのこと通じて、従来の神秘主義者としてのエックハルト像の刷新を試みるものである。前年度までの研究においては、フライベルクのディートリヒ(1240頃-1320頃)の知性論と、そのエックハルトに対する影響関係について詳細に検討が行われた。前年度に行った研究の成果については、本年度発行の二つの学術雑誌上で発表された。 本年度は、前年度までの研究とは異なり、エックハルトの存在理解について体系的な考察を行った。とりわけ、近年公刊された、中世における理念主義(idealism)の存在理解に関する専門書の詳細な検討によってエックハルトの存在理解に対するガンのヘンリクスの影響性の重大さが明らかとなったため、当初の計画にはなかったが、ヘンリクスの存在理解についてのおおよその把握を、先行研究等を手掛かりにして試みた。 エックハルトにおいて見受けられるところの「理念主義」とは、〈あれ〉や〈これ〉といった仕方で言明される事物の根底に、理念(イデア)的なものがあり、そうしたものによって事物は本当の意味で存在せしめられているのだ、というものである。その意味で、理念とは神の知性によって永遠に認識されている知性的なものであり、まさにそうした知性的なものを根拠として、あらゆる事物はそれ自体では真なる意味で存在するものではないにも拘わらず、その存在性において根拠づけられたものとして理解されるのである。 現在、本研究期間中に行われた成果を基礎として、2017年10月を目途に博士学位請求論文の提出を予定している。
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