研究実績の概要 |
本研究は,グローバル化の進展による国際貿易の形態の変化を踏まえて、国際貿易を進めることが各国の労働市場にどういった影響を与えるのか, そしてどのような政策を立てれば貿易から得られる便益(被る費用)を最大(最小)化することができるのかを, 最新のデータを用いて明らかにすることを目的とするものである.採用1年目においては,当初の計画通り,近年増加している理論的研究の動向を踏まえ, 他国の輸出競争力がベトナムの企業の雇用に与える影響についての計量経済分析を行った. この研究に関する論文を執筆し,タイ・バンコクで行われた国際学会にて論文発表を行った.現在は発表でのコメントを踏まえてほぼ完成稿に仕上がっており,査読付きの国際ジャーナルに投稿準備中である. 次に,これまで貿易データの制約により実証分析を用いた研究の蓄積が著しく不足していた,付加価値貿易とスキル別労働に関する研究にも取り組んだ.その成果は,国際貿易がスキル別労働に与える影響を産業別に計量経済分析を用いて分析した論文 “Offshoring and Skill Composition of the Labor Market”として現在執筆中である.この分析は,豊富なデータの集中するEUが率いて構築した世界産業連関表データベース(The World Input-Output Database)をもとに, 新たな拡張データベースを作成することによって可能となったものである.ここでは,これまで収集した産業別国際貿易のデータとスキル別労働データを組み合わせ, 産業間の違いを考慮した上で, 国際貿易が各国・各産業の雇用・賃金に与える影響を,計量経済分析を用いて計測した.これにより, 国際貿易や企業の生産過程の拠点分散化(フラグメンテーション)と労働のスキル構造との関係を明確にすることができると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
貿易は必然的に多国間かつ通時的な側面を有するため, 各国の経済発展における経路依存効果や, その効果が多国間に及ぼす相互作用の分析にも研究を発展させる必要がある.そこで、次年度においては応用一般均衡モデルを用いた模擬実験(シミュレーション)による分析を行うことを考えている.その準備段階として,2015年1月26日から30日まで5日間,シンガポールにて行われた短期集中コース「EcoMod Modeling School」を受講し,コンピュータ・ソフトウェアGAMSを用いて計算可能な一般均衡(CGE)モデルで模擬実験を実施するためのデータ整理・モデル構築を行う準備を整えた.これを踏まえて,採用2年目からは分析手法を計量経済学の手法からCGEモデルへ拡張し,模擬実験を行っていく計画である.模擬実験を実施することにより,計量経済分析ではなしえない成果を得ることができ,より頑健な政策提言を行うことができる.このように,計量経済分析と動学的CGE分析の2つの手法を用いることにより各手法の持つ長所を生かすことができる.具体的には,環太平洋連携協定(TPP)への加入といったグローバル化がもたらすとされている,スキル別労働者に与える失業率や賃金格差の原因を追究し,動学モデルを用いてその効果を予測する,といった作業に取り組んでいく.
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