研究課題/領域番号 |
14J03684
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大樂 武範 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | メタロDNA / 導電性ナノワイヤー / NMR / 安定同位体標識 / J-カップリング / 銀錯体 / 水銀錯体 / 核酸-金属相互作用 |
研究実績の概要 |
金属を介した核酸塩基対(メタロ塩基対)は、分子デバイス開発研究の重要な機能素子となっている。メタロ塩基対を構造基盤とした分子デバイスの論理的設計には、メタロ塩基対の化学構造情報が不可欠である。そこで、本研究では、多核NMR分光法を用いて、メタロ塩基対の構造決定を行った。 1. 水銀を介したチミン-チミン塩基対(T-Hg(II)-T塩基対)に関して、199Hgおよび15N NMRスペクトルを測定し、チミン塩基の3位窒素原子と水銀原子間の1J(199Hg, 15N)=1050 Hzを観測した。これにより、チミン塩基の3位窒素原子と水銀原子間に共有結合が存在していることを実験的に証明することができた。また、観測された巨大なJ値は、1J(199Hg, 15N)値として最大の値であり、分光学的にも稀少な実験値であった。この実験的事実により、1J(199Hg, 15N)値のとりうる値の範囲が過去の報告例よりも3倍広いことが示された。 2. 銀を介したシトシン-シトシン塩基対(C-Ag(I)-C塩基対)に関して、15N NMRスペクトルを測定し、シトシン塩基の3位窒素原子と銀間の1J(15N, 109Ag)=82-83 Hzを観測した。これにより、シトシン塩基の3位窒素原子と銀間に配位結合が存在していることを実験的に証明した。さらに、シトシン塩基のアミノ基窒素の状態解析も行うことができ、C-Ag(I)-C塩基対中のアミノ基窒素はプロトンを2つ保持したまま(脱プロトン化されていない)ことも明らかとした。以上の結果から、世界初のC-Ag(I)-C塩基対の化学構造決定を成し遂げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
NMR分光法を用いて、稀少なNMRデータの取得や、化学構造の決定を成し遂げており、期待以上の成果をあげている。 1. T-Hg(II)-T塩基対の199Hgおよび15N NMRスペクトル測定の結果、チミン塩基の3位窒素原子と水銀原子間に共有結合に伴う1J(199Hg, 15N)=1050 Hzを観測した。観測されたJ値は、1J(199Hg, 15N)として最大であり、稀少なNMRデータである。この実験的事実により、1J(199Hg, 15N)値のとりうる値の範囲が過去の報告例よりも3倍広いことが明らかとなった。 2. 計画において初年度の目標として掲げていた、「C-Ag(I)-C塩基対構造決定用の15N標識DNA分子の酵素合成法確立およびサンプル調製」よりも大幅に研究を進展させた。目的の15N標識DNA分子の酵素合成法を確立しただけでなく、NMRサンプルを調製し、15N NMRスペクトルを測定した。測定の結果、シトシン塩基の3位窒素原子と銀間に配位結合に伴う1J(15N, 109Ag)=82-83 Hzを観測した。さらに、C-Ag(I)-C塩基対中のシトシン塩基のアミノ基窒素の状態解析も完了し、アミノ基窒素はプロトンを2つ保持したまま(脱プロトン化されていない)ことを確定させた。これらの結果から、世界初のC-Ag(I)-C塩基対の化学構造決定を成し遂げた。なお観測された1J(15N, 109Ag)値は、銀錯体の稀少な多核NMRデータとして無機化学的にも重要なデータである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、メタロDNAを利用した導電性ナノワイヤーの開発を目指し以下の実験を行う。 1. C-Ag(I)-C塩基対を含むDNA分子の三次元構造決定 メタロDNA形成に本塩基対を利用する場合、本塩基対の構造/電子状態/物性解析が必須となる。そこで、NMR分光法を用いて、本塩基対を含むDNA分子の三次元構造決定を目指す。具体的には、本塩基対を含むDNA分子を調製し、1H-1H NOESYスペクトルを測定する。NOESYスペクトルの帰属を行い、得られるNOEデータから、三次元構造計算を行う。 2.メタロ塩基対からなる長鎖メタロDNA分子(ナノワイヤー)の調製方法の検討および物性解析 はじめに、T-Hg(II)-T塩基対を含む短鎖DNA分子を、DNAリガーゼのDNAバックボーン連結反応を利用して連結させることで、長鎖メタロDNA分子(ナノワイヤー)の調製を目指す。また、T-Hg(II)-T塩基対を含む長鎖メタロDNA分子だけでなく、C-Ag(I)-C塩基対を含む長鎖メタロDNA分子の調製も検討する。 長鎖メタロDNA分子調製の確認は、ゲル電気泳動にて行う計画である。さらに、マクロ構造決定も行うことで、長鎖メタロDNA分子の鎖長だけでなく、その形状(分岐構造の有無等)も解析する。マクロ構造決定は、走査プローブ顕微鏡(STM)にて行う計画である。なお、STMは長鎖DNA分子の形状だけでなく電気伝導性に関する知見が得られる。
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