研究実績の概要 |
有機合成化学において、炭素-水素結合の直接的変換反応は工程数や廃棄物削減の観点から、従来のクロスカップリング反応に代わる手法として注目されている。しかし、炭素-水素結合の官能基化ではパラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの希少な遷移金属が多く用いられてきた。そこで私は、より入手しやすいニッケル触媒を用いた反応の開発に着手した。 最近、ニッケルを用いた炭素-水素結合の変換反応は、盛んに研究されているがアゾールやパーフルオロベンゼンなど酸性度が高い炭素-水素結合に限られていた。私は、ニッケルでは配向基との親和性が低いため、ベンゼン環やアルカンなどの不活性な炭素-水素結合の反応へ展開が困難であると考えた。 有機化合物中に数多く存在する炭素-水素結合を位置選択的に官能基化する手法の一つとし、配向基を利用する方法が広く用いられている。この手法では、安定なメタラサイクルが形成されることが不活性な炭素-水素結合を切断する駆動力となっている。そこで私は、この手法を拡張し、分子内に2つの配位できる原子をもつ二座配向基の利用を着想した。二座配向基を用いることで3点により配位した、より安定なメタラサイクルが形成されるので、ニッケルを用いた場合でも、炭素-水素結合の切断のための十分な駆動力を得られると考えた。 上記に示した考えのもと、ニッケル触媒を用いた炭素-水素結合の変換反応の開発を行い、8-アミノキノリン由来の二座配向基を用いることでニッケル触媒でも不活性な炭素-水素結合の切断が起こり、ハロゲン化アルキルを用いた炭素-水素結合のアルキル化が進行することを見出している。 得られた結果をもとに、種々の反応剤を用いた反応への展開を試みたところ、5つの反応を見出した。中でもこの手法は、より不活性なsp3炭素-水素結合の変換反応にも適応できることが分かった。(式1、J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 898.)
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