研究課題/領域番号 |
14J03717
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
田中 雅大 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 参加型GIS / 視覚障害者 / 自立支援 / 地図 / ボランタリー組織 / アクションリサーチ / 協働事業 / 点字ブロック |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、周縁化された人々のエンパワーメントの手段として参加型GIS(PGIS)が果たす役割とその可能性、および課題を明らかにすることである。とりあげる事例は、視覚障害者と晴眼者が協力しながら「ことばの地図」と呼ばれる道案内文を作成している認定NPO法人ことばの道案内(以下、「ことばの道案内」)である。上記の目的を達成するために第1年度目は、以下の2つの調査を実施した。 (1)PGIS団体の構成員の参加の経緯と活動範囲の拡大過程の調査 「ことばの道案内」構成員へのインタビュー調査を行い、入会者の居住地、活動を知った場所、入会理由等を聞き取った。また、活動の参与観察を行い、活動見学者の特徴を調査した。その結果、「ことばの道案内」構成員の入会経緯の基盤は、代表者のローカルな人的ネットワークからメディアの影響、行政との協働事業へと変化し、それに伴い、活動範囲が九州地方まで拡大していることが明らかとなった。 (2)PGIS活動の社会的影響の調査 第一に、「ことばの道案内」と現在協働事業を行っている神奈川県、過去に協働事業を行っていた大分県の行政資料を収集して関係者にインタビューを行い、PGISに対する行政側の意向を調べた。その結果、行政との関係構築が活動参加者の増加、地域間交流、活動範囲の拡大に繋がっていることが明らかとなった。また、事業内容によっては地元住民との関係構築が難しく、それが地図の質的問題に繋がってしまうこともわかった。第二に、視覚障害者と晴眼者による点字ブロック敷設状況地図の協同作製を「ことばの道案内」に提案し、報告者自身が参加してその効果を検証するアクションリサーチを実施した。その結果、道路の管轄の違いが点字ブロックの途切れを生じさせ、工事データの形式の不統一化を招いていることが明らかとなり、交通インフラ整備におけるボランタリー組織の役割の大きさが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長期間の参与観察により調査対象者との間に良好な関係が築けたことで、興味深い事実が多数明らかとなった。また、アクションリサーチを通じて調査対象者の活動支援も積極的に行った。ただし、担当者の異動等により、当初の予定より聞き取り調査が行えた自治体が少なかった。また、情報収集とその整理に多くの時間を要したため、概念的枠組みの構築、得られた知見の学会発表、論文投稿が今後の課題として挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
第2年度目は、①「ことばの地図」の協同作製過程の分析、②「ことばの地図」の特徴の内容分析、③PGIS活動の社会的影響の調査を実施する。 ①では「ことばの地図」作製時の団体構成員の行動観察、発話データの採取を行い、「ことばの地図」の作製メカニズムを分析する。PGIS活動においては、複数の主体がいかにして合意形成を図るかが重要な論点である。上記調査を通じて、「ことばの道案内」が意見を集約させながら、1つの地図を完成させていくプロセスを明らかにする。 ②では、「ことばの道案内」がwebで公開している「ことばの地図」をテキストマイニングし、構文や語彙の特徴を分析する。それによって、①の結果がどのように「ことばの地図」へ反映されているのか、物的環境の違いにどのくらい影響を受けているのか、地域ごとの差異はあるかなどといったことを明らかにする。 ③では、第1年度に引き続き、「ことばの道案内」とともに点字ブロック敷設状況地図作りを実施する。第1年度目に当該活動を東京都北区へ事業申請したところ、平成27年度政策提案協働事業として採用された。第2年度目は北区民の協力のもと、区内の点字ブロックの分布や敷設状況を地図化して、行政へ問題点等を提示するというアクションリサーチを行う。それによって、「ことばの道案内」や行政、その他の区民にどのような影響が出るかを調べる。
|