本研究は、認定NPO法人ことばの道案内(通称「ことナビ」)を事例として、周縁化された人々のエンパワーメントの手段として参加型GIS(PGIS)が有する可能性と課題を明らかにすることを目的とした。本年度は(1)「ことばの地図」の内容分析、(2)活動の継続性についての検討、(3)全体のまとめを行った。 まず、行政機関との関係構築を重視している点がことナビの特徴であり、そのことが「ことばの地図」の内容とことナビの活動の継続性に影響を与えていることを明らかにした。ことナビは行政機関との関係構築により多様なエンパワーメントを引き出している。しかし、「組織の継続」を重視するために行政からの補助金を利用している側面があり、「地域における活動の継続」をないがしろにしてしまっている。これは、当該団体が「シャドー・ステート」になったことを反映している。 次に、これまでの研究成果を博士論文としてまとめた。論文では行政機関との関係に着目し、①「ことばの地図」作成活動と②点字ブロック敷設状況地図・データベース作成活動を比較する形で、現在の日本におけるPGISの可能性と課題を考察した。ことナビの活動における行政機関の立場は、①ではサポーター、②ではパートナーもしくは対抗者である。福祉分野における技術決定論的考え方が強いこと、NPOの資金獲得先が主に行政であること、行政のダウンサイジングが進んでいることを考慮すると、現在の日本においてNPOという組織形態で①のような活動を行うと、周縁化された人々がシャドー・ステート化し、行政の下請けを担うことが懸念される。それに対し②のような活動は、地理空間情報を行政組織の構造的問題を示す証拠、もしくはそれを是正する資料として利用することができ、周縁化された人々が行政との間に対等の関係を結ぶ手段となりうる。 これらの研究成果の一部は、各種学術雑誌・学会で発表した。
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