報告者は「信仰形態の変容」という問題意識にもとづいて研究を行ってきた。具体的には、日系新宗教の一つと分類される天理教の韓国における展開と現況に注目しながら、日本発祥の宗教が韓国の文化といかなる形で混交したかを明らかにしてきた。 現在、韓国の天理教は大韓天理教と天理教韓国教団(以下「韓国教団」)に分かれている。両教団の大きな違いは、日本の天理教教会本部との関係を重視するか否かである。独自の教団運営を行っているのが大韓天理教、教会本部の方針を尊重するのが韓国教団である。教団運営におけるこうした相違はあるが、両教団にみられる特徴の一つとして、天理教にみられる日本性を変容させていることを指摘することができる。日本で発生した天理教が韓国で布教を行うためには、韓国社会に根付いている反日感情に対応する必要があり、結果として儀礼方法、教義用語、祭具を変容させる必要があったことが報告者のこれまでの研究成果から明らかになった。 韓国の宗教文化は、長年の歴史の中で様々な国と宗教が盛衰してきた過程を背景にして形成されている。とりわけ、儒教を中心とする祖先崇拝は、今日の韓国においても多大な影響を及ぼしている。こうした影響は、天理教の韓国人信者の信仰生活からもみることができた。儀礼方法、祭具、さらに儀礼後の直会に出される料理など、様々な部分において儒教の影響を受けていることが見受けられた。つまり、儒教に影響を受けた考え方が韓国に根付いており、その中で祖先という存在を共通項としながら天理教と儒教の作法が混交しているものであると言える。 韓国における天理教の展開を、信仰形態の変容という視点から分析すると、おもに次の二つの意味で変容されてきたことが理解できる。すなわち、反日感情という韓国社会の特徴に反応する形で行われた変容と、儒教や祖先崇拝のような韓国の宗教文化と混交する方向で行われた変容である。
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