平成27年度の研究実施状況の特徴として、「Least Absolute Deviation(以下、LAD)に基づく頑健な経験尤度(以下、EL)法の構成」及び「自己加重(SW)法を用いた、モデルの無限分散性の制御手法の導入」が挙げられる。具体的には、線形回帰モデルにおける誤差項と説明変数の片方、もしくは両者に無限分散性を仮定し、それぞれLAD法、SW法と呼ばれる手法によってモデルの無限分散性を制御する手法を導入した。 まずアメリカ、イリノイ大学への招聘時(7-8月)には、Xiaofeng Shao教授との共同研究により、LAD法に基づくEL統計量を構成し、無限分散性に対して頑健な検定手法を構成した。本共同研究において構成したLAD-EL統計量の特徴として、漸近分布が未知母数に依らない通常のカイ二乗型となる事が挙げられる。すなわち、チューニングパラメータの設定が不要という、実用上の大きな利点を持つ検定方式を構成した。当該論文は現在、数値例を用いた有効性の検証段階まで進行しており、今後国際紙に投稿予定である。 一方、ドイツ、ルール大学への招聘時(9-10月)には、Holger Dette教授との共同研究として、無限分散を持つ時系列モデルの変化点検定問題を考えた。本研究の本質的な特徴として、LAD法のみならずSW法と呼ばれる手法を用いて統計量を改良し、無限分散モデルの変化点問題に対するLAD-SW-EL統計量の漸近分布が未知母数によらないことを示した。今後はシミュレーションによって本手法の検出力を従来の手法と比較し、実データに対する解析を行った後に国際紙へ投稿予定である。 本年度はLAD法及びSW法等の新たな統計的手法により、時間領域での頑健なEL検定法を構成することに成功した。今後の研究展望としては非母数的な無限分散時系列モデルの重要指標の検定に対する頑健な手法の構成が期待され、より統一的な手法の構築が望まれる。
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