前年度までに、大腸菌細胞膜上の官能基へジグリコールアミド酸配位子(DGA)を化学修飾することで、大腸菌の希土類金属への選択性およびその吸着容量を向上させることができた 。しかし、この方法は、大腸菌細胞にとって刺激が強く、細胞を変性させるため、最終的に得られる吸着剤の量が少量となる問題が生じるとともに、得られた吸着剤の繰り返し利用には課題が残った。 そこで、本年度は、細胞への刺激を低減するために、新たな修飾法を提案し、バイオ吸着剤の改良を試みた。すなわち、予めDGAを修飾した高分子を合成し、高分子と細胞膜間の静電相互作用および、DGAが有するカルボキシル基と細胞表層のアミノ基間のアミド結合の形成により、細胞の表層修飾を行った。得られた吸着剤を用いて、希土類金属と一般金属との分離性能を評価した。その結果、未修飾の大腸菌と比べて、pH 2~3における希土類金属の吸着率が著しく増加する一方、一般金属の吸着率はほとんど変化しない現象が観察された。得られた吸着剤の分離性能を評価するために、金属イオンの吸着率が50%となる半値pHを求め、対象金属間でのその差を算出した。高分子修飾大腸菌を用いた場合の希土類金属と一般金属間での半値pHの差は、未修飾ならびに先述の化学修飾大腸菌と比べて増大した。高分子を用いて大腸菌を修飾することで、希土類金属の分離がより効率的に行える吸着剤が得られることが示唆された。Nd3+、Dy3+およびLu3+の飽和吸着量をLangmuirの吸着等温式により算出し、未修飾大腸菌の値と比較した結果、それぞれ、1.8、2.4および2.0倍大きいことがわかった。最後に、得られた吸着剤を用いて、希土類金属の脱着実験を行った。その結果、吸着した金属は酸により容易に脱着可能であり、吸着・脱着実験を3回繰り返しても希土類金属に対する性能に変化はないことが確認できた。
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