研究実績の概要 |
沖縄近海で採取された宝石サンゴ(Corallium conojoi)の骨格中微量元素の2次元分布を明らかにした.宝石サンゴ骨格の成長軸に対して垂直に切断し,切断面の微量元素(マグネシウム,硫黄など)とカルシウムのカウント比(Mg/Ca, S/Caなど)をElectron Microprobe Analyzer(EPMA)で分析した.宝石サンゴ骨格の中心部でマグネシウムが高濃度,硫黄が低濃度だった.また,Mg/Caが低いリング状の層が中心部から縁辺部まで同心円状に複数観察された.S/Caも同心円状の分布を示したが,Mg/Caが低濃度の層でS/Caが高濃度だった.同じ試料の骨格表面の構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した. ミッドウェイ近海から採取された宝石サンゴ(Corallium secundum)の骨格を成長軸に対して垂直に切断し,切断面の微量元素含量(Li/Ca, B/Ca, Mg/Ca, Sr/Ca, Ba/Caなど)をレーザーアブレーション誘導結合質量分析計(LA-ICP-MS)で測定した.Li/Ca, B/Ca,Sr/CaはMg/Caと正の相関を示したが,Ba/CaはMg/Caと負の相関を示した. NanoSIMSを使って宝石サンゴ骨格中のハロゲン(フッ素,塩素など)を定量するため,フッ素と塩素の分布が均一な炭酸カルシウム標準試料を作成した.出発物質として高純度の炭酸カルシウムに少量のフッ化ナトリウム, 塩化ナトリウムを混合した.ピストンシリンダーを使って出発物質を高温高圧下(1000度, 1GPa)で24時間保持した後,室温まで急冷した.得られた炭酸カルシウム結晶のF/CaとCl/Ca(カウント比)をNanoSIMSで測定し,フッ素と塩素の均一性を評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度予定していたNanoSIMSを使った宝石サンゴの微量元素分析はマシンタイムの調整のため2015年5月に延期した.一方,EPMAとLA-ICP-MSを活用し,数十~数百 μmの解像度で宝石サンゴの微量元素分布を明らかにした.これまで造礁サンゴの微量元素(Li, B, Mg, Sr, Ba, Uなど)を使った研究例は比較的盛んに測定され,古環境復元への応用が検討されてきた.一方,宝石サンゴ骨格の微量元素を高解像度で分析した研究例はほとんどない.そのため,今年度得られた研究結果は先進的であり,宝石サンゴ骨格が海洋深層の環境を記録しているか評価する上で非常に重要なデータといえる.また,宝石サンゴが骨格を形成するメカニズム(バイオミネラリゼーション)を解明する上でも今回測定した骨格中の微量元素組成は重要な手がかりとなりうる. また,NanoSIMSを使った炭酸塩試料中のハロゲン定量分析に向けて,標準試料の作成に成功した.今回作成した標準物質は宝石サンゴ以外にも多様な炭酸塩試料(シャコガイ,有孔虫,石筍など)にも応用できるため,汎用性が高く価値がある.
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