研究課題
本研究は、運動に対するストレス・炎症応答の遺伝的差異が、運動の健康増進効果の個人差を規定するという仮説のもと、運動に対するストレス・炎症応答の個人差を規定する遺伝要因を明らかとすることを目的とした。平成26年度は、160名の健康な中高齢男性(年齢:61.7 ± 11.7歳)を対象として、血中のストレス・炎症指標に及ぼす遺伝子多型と身体活動・体力の影響を横断的に検討した。血中のストレス・炎症指標として、fibroblast growth factor 21(FGF21)、monocyte chemotactic protein-1(MCP-1)の2つを選択し、ELISA法によりそれぞれの血中濃度を分析した。日常の身体活動を反映する指標としては、心肺体力の指標である最高酸素摂取量(VO2peak)を測定して用いた。FGF21の受容体に存在する遺伝子多型と血中FGF21濃度との関連を心肺体力レベル別に検討した結果、心肺体力が低い者においてはFGF21の共受容体であるKLB遺伝子のrs4975017においてACもしくはAA型を有する者の血中FGF21濃度は、CC型の者と比較して有意に高かったが、心肺体力が高い者においては遺伝子型による差は認められなかった。同様に、MCP-1およびその受容体上に存在する遺伝子多型と血中MCP-1濃度との関連を検討したところ、心肺体力が低い者においては、CCR2 rs1799864と血中MCP-1濃度との関連は認められなかったが、心肺体力が高い者においては、CCR2 rs1799864のAGもしくはGG型を有する者の血中MCP-1濃度はAA型の者と比較して有意に高かった。以上の結果より、血中のFGF21およびMCP-1濃度に及ぼす遺伝子多型の影響は、心肺体力レベルにより異なる可能性が示唆された。特に、MCP-1の高値は慢性炎症ならびに動脈硬化の進行に関与するため、CCR2 rs1799864多型を介したMCP-1濃度の上昇が、習慣的な運動による健康増進効果の個人差を規定しているかどうかを今後検討していく必要がある。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は2つのストレス・炎症指標(FGF21、MCP-1)に及ぼす遺伝子多型と身体活動・体力の影響を横断的に検討し、低体力者もしくは高体力者のみにおいてこれらの血中濃度に影響を及ぼす遺伝子多型を2つ同定したことから、当初の目標は十分に達成したと思われる。また、当初は平成27年度に実施する予定であった運動トレーニング介入を平成26年度の後半より開始することができ、次年度の目標達成に向けた準備を進められたことから、研究は概ね順調に進展していると考えている。
引き続き、高齢者を対象とした運動トレーニング介入を行い、約30名の介入を終わらせる。介入前後においてストレス・炎症指標を分析し、これらの指標の変化量に影響を及ぼす遺伝子多型を探索する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
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