本研究の目的は、固体中の電子正孔系を複数の光パルスによって制御し、新たな機能を生み出すことである。昨年度に開発した光電流コヒーレント分光システムを利用し、光電流生成過程の研究を行った。 まず、低温環境下におけるGaAs結晶の光電流生成過程の研究を行った。測定した光電流の超高速時間応答をフーリエ変換することで、光電流生成に寄与する量子状態のスペクトル分布を得ることに成功した。このスペクトルを解析することで、光電流を発生させる3つの過程が存在することが分かった。これら3つの過程は同時に光電流を生成するために従来の手法では解析が困難であったものであり、本研究によって初めて詳細な過程が解明された。温度に対する依存性を測定することで、アクセプタのイオン化に伴って支配的な光電流生成過程が推移することを明らかにした。また、観測された非発光状態が光電流に大きな寄与を与えていることを明らかにした。 次に、太陽電池材料として近年盛んに研究が行われているハロゲン化鉛ペロブスカイトについて、バンドギャップ内局在準位の研究を行った。バンドギャップ内局在準位は発光スペクトルと吸収スペクトルに現れないために観測が困難であり、詳細な物性が理解されていなかった。局在準位を高感度に検出することが可能な光電流コヒーレント分光を用いることで、局在準位が存在することを示し、温度に対する依存性を明らかにした。 これらの研究を通して、複数光パルスによる分光法が固体の光学的・電気的特性を明らかにするための有力な手法になること、さらに光電流生成過程を光パルスによって制御できることを示した。
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