研究課題/領域番号 |
14J03858
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 さなえ 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 御料地 / 皇室財産 / 品川弥二郎 / 岩村通俊 / 天皇制 / 日本近代史 |
研究実績の概要 |
[成果公表]科研費交付以前から既にある程度準備を進めていた研究を論文2本、学会報告2本に結実させることができた。具体的には、立憲制導入に伴い制度上は「皇室・国家の分離」が達成されたものの、御料地運営という、実際に制度を運用する場では、「皇室と国家は一体である」という観念が宮内官僚・政府指導者双方に根強く存在していたことを明らかにした。これは、「御料地運営と国家の国土政策の目的が混同されていた」という本研究開始前の見通しの正しさを裏付ける重要な発見であり、本研究の前提となる重要な基礎作業と位置付けることができる。また、今後本特別研究員奨励費による成果も含めて博士論文を作成するうえで欠かすことのできない要素となる。 [史料調査]本年度には、当初「交付申請書」の「研究実施計画」にて両年度に分けて行う予定であった史料調査の大半を遂行した。まず、1年目で調査する予定であった「北海道御料地除却一件」に関して、宮内省・北海道庁に残る史料を多数発見した。同一件に関しては、本研究開始前に既に国立国会図書館憲政資料室所蔵「品川弥二郎関係文書(その1)書類の部」中にてある程度概要を把握していたが、本研究により発見した公文書類と突き合わせることで、前掲史料のみでは十分に明らかにできなかった点を解明することができるようになり、同一件の全体像をより立体的に浮かび上がらせることに成功した。 また、2年目で行う予定であった「木曾御料林民有下げ戻し一件」に関しても、宮内庁書陵部宮内公文書館や国立公文書館つくば分館にて多数の公文書類を発見した。一方で、「河川」という国土と御料地の関係を解明する重要な史料を多数発見した。これにより、河川をめぐる御料地の地元住民どうしの対立に、御料局・地方行政機構がそれぞれ如何なる対応をしたかという、近年盛んな資源論の問題意識とも接合することができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成果公表に関しては、論文化作業の過程で、分量の関係から、当初の計画の「北海道御料林除却一件」に関する研究と、その前提となる研究は分けて公表すべきだと判断した。具体的には、「北海道御料林除却一件」に関する研究では、宮内官僚の中には御料地を使って国家による国土保全政策を補完・代替しようとする立場が存在し、その立場が明治20年代の御料地運営のあり方を規定したいたという結論を見通しているが、その議論の前提として、明治20年代の御料地運営の目的が、国家の政策的視点と混同されていたということをなるべく多様な事例から示さなければならない。そのために、本年度では明治20年代の御料鉱山・長野県御料林において、国家の産業政策を補完・代替せんとする立場が宮内官僚の中に根強く存在し、御料地運営に大きな影響力を及ぼしていたことを明らかにした。 このように、当初の計画で1年目に行う予定であった研究に関しては、その前提として必要な全ての研究を公表することを得たが、「北海道御料林徐却一件」自体の研究成果は本年度中に公表するに至らなかった。 しかし、本年度は「交付申請書」に記した当初の計画のうち、特別研究員採用の2年間で行う予定であった史料調査の大半を遂行することができ、更に当該調査で得られた史料の翻刻・整理もある程度終え、大まかな論点を設定することもできた。残りの作業としては、これをもとに報告あるいは論文化・投稿するのみであるため、次年度は成果公表活動に集中することができる。整理した史料をもとに文章化する過程で若干の史料調査が必要になることを考慮しても、「交付申請書」に記載した当初の目標の論文2本は次年度内に確保できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、「交付申請書」にて記載した「研究実施計画」において採用中の両年度にわたって行う予定であった史料調査の大半を終えることができたので、特別研究員採用2年目はこの調査の結果をまとめ、全国的学界にて報告した上で、そこで得た指摘や批判を踏まえて論を修正し、論文化して全国誌に投稿する。具体的には、まず上半期に「交付申請書」提出当初2年目で行う予定であった研究成果を公表し、下半期には同じく当初1年目で公表する予定であった研究成果を公表する。 その際、当初の「研究実施計画」に記載の分析対象を以下のように変更する。当初計画では、「木曾御料林民有下げ戻し一件」を対象としていたが、同一件に関する史料を調査する中で、本研究の関心である「国土保全」について焦点化することが難しいと判断した。その一方で、史料調査の過程で、同一件を河川という国土と御料地との関係を解明する上で重要な史料が多数見つかった。これらの史料は、近年盛んになりつつある資源論の成果を踏まえれば、「木曾御料林民有下げ戻し一件」よりも本研究の目的を達成する上で有効であると判断し、2年目で行う予定の研究に替えた。 具体的な研究の進め方としては、既に収集した史料をもとに6月までに論旨を構成し直し、7月頃に皇學館大學人文學會大会(三重県)にて報告を行う。そこで得た指摘をもとに論を修正し、8月上旬までに『日本史研究』に投稿する。9月から10月にかけては、北海道御料地除却一件に関して採用1年目に収集した史料をもとに論を構成し、11月頃に近現代史研究会(名古屋大学)にて報告する。そこで得た指摘をもとに論を修正し、若干の追加史料調査を経たのち12月までに『ヒストリア』に投稿する。この間、博士論文作成に向けた準備は継続的に行うが、1~3月には特に集中的に、上記の成果及びこれまでの成果をまとめる作業に集中し、博士論文の完成を期す。
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