研究実績の概要 |
本年度は, 相対論的輻射流体計算コード開発に向けた準備および無衝突衝撃波形成を目指すレーザープラズマ実験の解析を行ってきた. 申請者はこれまでに, GRB放射メカニズム解明に向けた相対論的輻射流体計算コードの開発を目指し, その準備としてモンテカルロ法を用いた相対論的輻射輸送計算コードを開発してきた. ここで考えているような超相対論的流体を背景場とするような輻射輸送計算はこれまで十分に行われていないため, 申請者はあらゆる角度からの検証を行いながらコードを開発してきた. 衝撃波静止系において, 光子は衝撃波前面で逆コンプトン散乱され高エネルギーへと叩き上げられ, その後衝撃波後面で通常のコンプトン散乱によりエネルギーを失い, 電子の静止質量エネルギーに相当するエネルギーにピークを持つ特徴的なスペクトルが表れることを確認した. また前年度に, 数値拡散の効果が輻射輸送計算に与える影響についてモデルを用いて検証していたが, 同じ条件で相対論的流体計算を行った際も同程度衝撃波面がなまることを確認した. 一方で, これまでに申請者らによって開発されたレーザープラズマ実験用輻射流体コードを用いて, 実験の解析を行った. 高エネルギー宇宙線は無衝突衝撃波近傍で非熱的粒子がフェルミ加速を起こすことによって生成されると考えられている. 実験で無衝突衝撃波を形成することにより, その周辺における粒子の分布関数や電磁場を直接測定することができ宇宙線の起源を探る上で有益な情報を得られるが, 実験による無衝突衝撃波形成が成功した例はまだ報告されていない. 申請者は数値解析により実験を成功に導くことを目的とし, 前年度の実験解析を行い, ターゲット後面からレーザーを打ち込むとターゲット前面から噴き出すアブレーションプラズマと後面から回り込んだプラズマが影響し合い特徴的な構造が表れることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
相対論的輻射輸送計算コード開発に関して, トムソン散乱のみを考慮した際には現れずコンプトン散乱を考慮すると現れるエネルギースペクトルのピークを説明するために, 光子の軌跡ごとに分解してスペクトルを解析する作業を加えた. そのため若干多くの時間を要したが, 詳細な解析結果は投稿論文にまとめられる予定である. またレーザープラズマ実験解析に関して, 実験条件に合わせて計算領域や計算格子数などの計算条件を調整する作業に時間を要した. これらの作業の追加により, 計画以上に大きく研究が進展することはなかったが, おおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, これまでに開発してきた相対論的輻射輸送コードと流体計算をカップリングさせ, 相対論的輻射流体コードを開発していく. これは流体場への輻射フィードバックを考慮したものを想定しており, 世界的にもまだ行われていない計算である. 相対論的流体コードは共同研究者であるCaltechの長倉研究員の協力を得て開発し, まずは一次元流体と輻射輸送のカップリング計算を行う. これまでの計算から光子の放射位置の決定方法が放射スペクトルに影響を及ぼすことが考えられるため, 適切な放射位置の決定方法について検討する. また, 輻射フィードバックを流体場に入れた際の衝撃波構造変化についても検証し, その構造が放射スペクトルに与える影響についても調査する. 一方で, レーザープラズマ実験の解析も進めていく. 実験により生成されるプラズマに表れる低密度領域では, 輻射が非等方的になり拡散近似を行うことができない. よって, 光学的に薄い領域から厚い領域まで広範囲にわたって計算を行うことのできる輻射輸送計算手法が必要となる. これについて, 可変エディントン因子を用いた輻射計算法を構築し, 検証を行っていく. また, 無衝突衝撃波形成に関する実験の解析では磁場を考慮する必要があるため, これまでに開発してきたMHDコードを用いて今年度の実験デザインを行い, 無衝突衝撃波を形成できる各種実験パラメータを提案していく予定である.
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