研究課題/領域番号 |
14J03883
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
笠木 雅史 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | アプリオリ / 知識 / 証拠 / 推論 / 懐疑論 |
研究実績の概要 |
伝統的な定義ではない新しいアプリオリ・アポステリオリな知識の定義を示すという本研究の計画のために、証拠、基盤、知識の関係を究明し、それが新しい定義と親和的であることを示すことが必要となる。本年度はこの点についての研究を行い、以下の成果がえられた。
A.「推論的信念の基盤は証拠である」という見解は誤りである。信念の証拠は、信念の持つ正当化の度合いを決定するものであり、信念の正当化は関連する多くの信念によって決定される。しかし、信念の基盤は、通常信念形成の因果的な先行者と考えられ、それほど多くの信念が基盤であるとは考えられていない。本年度の研究では、正当化関係と因果関係の間には、このように関連する信念の関与の仕方に相違があり、このことから基盤と証拠は一致しないと考えることができると示した。本研究は海外学会で発表され、プロシーディングに収められたが、大幅に手直しの上、現在海外の専門誌に投稿中である。 B.「推論的信念の基盤は証拠である」という考えは、60年台のD. Davidsonの著名な見解に由来する。この考えは、認識論だけでなく行為論でも「実践的推論による行為の基盤は理由である」という形で標準的な見解になっている。行為論と認識論におけるこの見解の擁護を検討し、それが「理由・証拠」と「理由・証拠を持つこと」の混合に基づいているため、説得力を持たないと論じた。本研究は国内学会で発表された。 C.上記A、Bの研究と関連して、認識論におけるグローバルな懐疑論とローカルな懐疑論の相違は、何が信念の基盤となるのかという点の相違と対応しているという発見がえられた。この発見に基づき、国外の招待講演で、従来の懐疑論の分類が誤りであるという発表を行った。この点は、今後アプリオリな知識についての懐疑論へと適用することで、本研究に組み込む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究を進行させるためには、当初予定していなかった「証拠」、「基盤」といった認識論上の幾つかの事柄について調査し、再考する必要があることが判明したため、応募時の研究を多少変更し、実施予定であった「アプリオリ・アポステリオリな知識」の研究の仕上げではなく、その基礎研究としてこれらの事柄の研究を行った。この基礎研究はかなりの進捗が見られたため、国内外の学会で発表した。 より詳しく述べると、アプリオリな知識は伝統的に「経験的証拠から独立の知識」として定義されてきた。前年度の研究で、この伝統的定義には問題があり、より適切には「経験に構成的に依存しない知識」として定義されるべきだという見解を提示した。しかし、「構成的依存」と「非構成的依存」をどのように区別するのかは、前年度の研究では概要しか提示していなかった。構成的依存を特徴づける方法は幾つか可能であるが、ある程度多くの論者が認めていると思われるのは、「信念の基盤となる」という定義である。多くの論者は同時に、「基盤は証拠である」という見解も採用しているため、これらの論者の見解は、伝統的なアプリオリな知識の定義と親和的なものとなる。それ故、本研究の伝統的な定義ではなく新しくアプリオリの知識の定義を示すという計画のために、証拠、基盤、知識の関係を究明し、それが新しいアプリオリな知識の定義と親和的であるということが必要となる。本年度はこの点についての研究を行い、従来の認識論の常識である「証拠は推論という因果プロセスの始点である」という見解には問題があり、証拠は因果性ではなく、あくまでも仮説や主張を正当化するという認識論的機能のみから定義されるべきだという見解を擁護した。 この見解は前年度にえられた成果である新しいアプリオリな知識の定義を補完するものである。また、懐疑論や行為論といった他の主題にも新しい見通しを与えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では前年度にアプリオリな知識を「経験に構成的に依存しない知識」として定義するという新しい定義を提示し、今年度はこの構成的依存関係を、従来の見解とは異なり因果性ではなく、認識的機能にのみ基づいて定義するという見解を擁護した。これにより本研究は、一応の見通しがついたといえる。今後追求する予定の課題は以下の3つである。
A.本年度の研究で示した正当化以外に知識を構成することができる認識的機能はどのようなものがあるのかという課題を追求することで、本研究を完結させることを目指す。特に、証拠によらない知識を構成するファクターがどのようなものかを解明する。従来、心理学、認知科学だけで考察され、認識論ではあまり考察されてこなかった、認識において機能しているモデルの役割に焦点を当てる。 B.本研究によれば、アポステリオリな知識は「経験に構成的に依存している知識」として定義されるが、アポステリオリな知識は非経験的なファクターに構成的でない形で依存していることも認める。この非経験的なファクターへの非構成的依存関係を、心理学や認知科学で言われている「想像力」、つまり過去の経験で作られたモデルの拡張的使用として特徴づける。 C.これらA、Bの研究成果と本研究のこれまでの研究成果を結びつけ、「哲学的知識のアプリオリ性」を解明する。哲学のアプリオリ性は、従来知的直観のような非経験的能力によって哲学的主張や理論は正当化されるという根拠で擁護されてきた。前年度の研究でこれを否定したため、A、Bの成果を用いて、「哲学的知識がどの程度アプリオリなのか」、「そのアプリオリ性はどのような非経験的ファクターに由来するのか」という問題に回答を与える。
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