本研究の目的は、従来の定義では、アプリオリ、アポステリオリのどちらか一方に分類されてきた要素を両方持つアプリオリの知識の可能性を認識論的に追求し、それによって、同時にその可能性を哲学史上のアプリオリ・アポステリオリの考え方と比較することと、その研究を哲学方法論に応用し、哲学のアプリオリ性を再考することである。本年度の研究は、従来行っていた(1)アプリオリな知識の認識論的研究に加え、これまで本件研究内で進められてきた、(2)哲学史におけるアプリオリ性の理解の変化、(3)哲学方法論の中でのアプリオリ性の位置づけを調査・研究する点で、これまで行ってきた研究の集大成と言うことができる。 (1)アプリオリな知識の認識論:「信念の基盤は証拠である」という見解は誤りであるという議論を展開した学会発表を先年度に行ったが、その成果を修正し国際的専門誌に発表した。この成果は、本研究の他の成果と組み合わすことで、何がアプリオリ・アポステリオリな知識にあたるのかという既存の分類を修正する可能性を持つものである。 (2)哲学史におけるアプリオリ性の理解の変化:アプリオリ・アプリオリ性は近世哲学において導入された後、多くの意味が付け加えられてきた。本研究では、それらの歴史的変遷も調査対象としてきたが、本年度は特に、1950年台におけるイギリス哲学において、アプリオリ性を哲学、社会学の方法論的特徴と論じたPeter Winchと、彼の議論を取り巻く論争状況について調査し、国内学会で発表した。 (3)哲学方法論の中でのアプリオリ性:哲学は従来経験科学と異なり、アプリオリな学問であるとみなされてきた。本研究では、哲学のアプリオリ性は、知識の必要条件である正当化ではなく、理解の必要条件である説明に由来すると考えることがより適切であるという主張を国際学会で発表した。
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