本研究は、ステファヌ・マラルメの舞踊評論がもつ特異性および革新性に着目し、マラルメにおいて舞踊とは何かという問題を解明することが目的である。詩的散文で書かれたこの評論をどのように解釈するのかという問いをめぐり、1880年代と1890年代の初出評論記事を中心にテクスト分析を進めた。 まず、年代ごとに舞踊評論にみられる思想を分析してゆくと、80年代におけるマラルメの舞踊思想が90年代に変化していることがわかり、80年代から90年代にかけて、マラルメの舞踊思想において、大きな美学的転換があるということを発見することができた。その成果を以下に発表した。日本フランス語フランス文学会春季大会において、「マラルメにおける薄布の役割」という題名で発表した研究は、マラルメの舞踊評論を薄布/ヴェールの語に着目して、その美学的な思想の進化と変化を分析したものであり、これにより、マラルメの詩編「エロディアード」読解への道を切り開くこととなった。 第二に、前年度から引きつづき、マラルメに影響をうけるかたちで舞踊評論を書いたベルギーの象徴派詩人、ジョルジュ・ローデンバックによる舞踊思想を分析し、マラルメの思想との比較を行った。この二人の思想の共通点と相違点、ならびに相互影響を「薄布/ヴェール」に着目して分析することで、マラルメがローデンバックと舞踊についての議論を深めるなかで、薄布の問題を掘り下げていたことを指摘することができた。 第三に、第一の研究で得られた「エロディアード」読解への可能性を引き継ぎ、舞踊評論におけるヴェールと裸体の関係を「エロディアード」をとおして明らかにすべく、日本フランス語フランス文学会関東支部会において研究発表を行った。 上記の研究遂行上、今年度もフランスに短期滞在し、フランス国立図書館、パリ大学付属図書館等で、資料調査、閲覧、複写を行い、この研究を実証面で補強することができた。
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