生物にとって、周辺環境の変化に適応できるかどうかは死活問題である。自らの生存や種の繁栄に最も適した時期や時間帯に合わせて活動のタイミングを調節する適応戦略、あるいは現象そのものを「時間的ニッチ(temporal niche)」と呼ぶが、その制御機構は謎に包まれている。本研究では、生物の活動のタイミングを決定する様式として「概日リズムの同調」と「マスキング反応」に着目し、自然界における2大環境因子である「光」と「温度」の観点から、時間的ニッチの制御機構について検討した。 過去の研究により、哺乳類における新規光受容タンパク質オプシン5を欠損するマウスでは、紫外光に対する概日リズムの光同調能が低下する可能性が示唆された。このとき、同じく紫外光感受性であるUV錐体オプシンの関与が疑われたことから、網膜の視細胞が退化・消失するrd1突然変異マウスとの交配によってオプシン5とUV錐体オプシンの両方を欠損するダブルミュータントマウスを作出した。このマウスを用いた行動解析により、オプシン5欠損個体における光同調能の低下、及びダブルミュータントマウスにおける相加的な光同調能の低下が確認された。 環境温度変化に依存したマウスの活動抑制現象(ネガティブマスキング反応)について、昨年度の研究によりマスキング反応が生じる温度条件を明らかにした。哺乳類ではTRPチャネルというイオンチャネルファミリーが温度センサーとして知られていることから、マスキング反応を制御する温度受容体の特定を目的として、いくつかのTRPチャネル欠損マウスを用いた行動解析を行った。その結果、複数のTRPチャネルがマスキング反応の制御に関与している可能性が示唆された。現在、それらのTRPチャネルについてダブルノックアウトマウスの解析を進めている。
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