研究課題/領域番号 |
14J03928
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大丸 拓郎 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 宇宙工学 / 熱流体現象 / 気液二相流 / ヒートパイプ / 熱設計 |
研究実績の概要 |
本年度は研究計画において予定していた、自励振動ヒートパイプ(Oscillating Heat Pipe: OHP)の一次元内部流動モデルおよび可視化実験装置を用いた、自励振動流が発生している際の動作特性の解明、また、実用化が期待されている逆止弁付きOHP (Check Valve OHP: CVOHP)の内部流動モデルを構築し、JAXAによって行われている軌道上試験との比較、起動特性の解明を行った。それと並行して本モデリング手法を応用して、NASAジェット推進研究所と連携して、二相流体を用いた次世代宇宙機の熱制御システムのモデリングを行った。 一次元内部流動モデルを用いたOHPの動作特性の解明に関しては、前年度までに進めていた内部流動モデルのプロトタイプの数値解法、エネルギー保存則をアップデートすることでより精密なモデルを構築した。モデルは実験結果とのコリレーションを行うことで、数値計算結果が定量的な妥当性を示していることを確認した。 次にそれらのモデルを用いて、自励振動が発生してる際の気相部分の圧力と体積の変化に着目することで、OHP内で流体の自励振動流が持続するメカニズムを解明した。得られた結論としては、OHP内で自励振動が発生している際には流体内で圧力の波が伝播しており、それと同時に気相部分を介してのエネルギーの伝播が生じていることが明らかになった。次に、これらの結果に基づき実験により同様の現象が得られるか確認した。実験においても圧力の伝播が確認され数値計算結果から予想された事象が正しいことが証明された。以上の結果はこれまで長年不明瞭であったOHPの動作原理を理解するために重要な知見となり、今後の研究の進展において突破口になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの研究は当初予定していた計画よりも前倒しして進めることができている。特に、最終年度に予定していたJAXAによる軌道上実証試験との比較まで着手することができており、来年度以降にプラスアルファの研究成果を得られることが期待できる。具体的には、軌道上実証試験に用いられたCVOHPの供試体と同様のモデルを数値計算により再現し、実験結果との比較からモデルが定量的に性能を予測することが可能であることを確認した。また、そのモデルを用いて、軌道上実証試験で観察された、起動時の不具合の原因を解明するために計算を行った。得られた知見としては、CVOHPが搭載されている小型衛星が日陰に入った際に搭載パネルの温度が低下することによる内部気液の分布が不具合を引き起こしている可能性が高いことが分かった。今後はより詳細な検証を続け、最終的には起動特性改善のための解決策を提案することを目標にする。 また、本研究で構築したモデルをベースにし、それを応用することで発展的な課題に着手することができている。モデリングの技術を応用することで二相流体機械式ポンプループの数学モデルを構築した。本トピックはNASAジェット推進研究所との連携のもと行われ、二ヵ月間程度実地に滞在し、NASAの技術者とディスカッションを重ねつつ実施した。基本的な物理モデルを宇宙機のシステムスケールまで発展させることで、詳細なシステム検討のためのツールを構築できたとともに、ループシステムに用いる流体の種類の初期検討を実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は計画において予定していた、OHPの設計ツールの構築を行っていく予定である。これまでに構築してきたモデルをベースにして、宇宙機の熱システムとして、必要熱輸送量、動作温度、熱輸送距離等の条件をインプットとして与えた際に、最適なOHPの設計パラメータを導き出すことを目標にする。先行研究においてはOHPの設計指針となるツールが存在せず、経験則に頼って行われてきたため、設計ツールが完成した際の学術的、エンジニアリング的なインパクトは大きいと考える。また、モデルを用いてさらなるOHP内の物理現象の解明を行っていく。現在ターゲットにしている現象はCVOHP内での圧力波の伝播現象である。これまでの研究で通常のOHP内での伝播現象は理解が進んできているものの、逆止弁が付加された際の現象に関してはいまだ知見が得られていない。そこで実験では確認が困難である物理現象に対して数値計算からのアプローチを行い、宇宙応用に向けて研究を進めていく予定である。
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