研究1では,高校女子バスケットボール選手を対象に前十字靭帯損傷予防プログラムを実施し,実際に前十字靭帯損傷の発生率がどのように変化するかを調査した.対象者を予防プログラム介入群,非介入群の2群に分け,介入群には予防プログラムを1年間実施した.そして両群における1年間の外傷発生率の調査を行った.その結果,予防プログラムを実施した介入群では非介入群に比べ,前十字靭帯損傷を含む重度膝外傷の発生率が約80%減少することが示された.前十字靭帯損傷予防プログラムは,前十字靭帯損傷のリスクとされる下肢動作を改善させ,さらには前十字靭帯損傷の発生を予防する効果が認められることが明らかとなった. 研究2では,中学生および高校生女子バスケットボール選手を対象にし,予防プログラム介入前後における下肢動作の変化を各群で比較した.その結果,中学生の時期には,膝内側変位量が発育とともに増大するが,予防プログラムの実施により,その変化が抑制される可能性が示唆された.一方,高校生では,介入群においてプログラム実施後に膝内側変位量が有意に低下したが,非介入群においては変化が認められなかった.したがって,高校生の時期には発育に伴う動作変化が少なくなり,予防プログラムを実施することによって動作を改善させ易くなる可能性が示唆された. 研究3では,前十字靭帯損傷予防プログラムを行うことによって,膝関節周囲の筋活動がどのように変化するのかを明らかにすることを目的とした.本研究では,多数の筋による複雑な運動の神経回路を間接的に調査するために,通常の筋電図解析ではなく,複数の表面筋電図パターンから数理的に運動モジュールを抽出する筋シナジーの解析法を用いる.本研究では,前十字靭帯損傷予防プログラムによって,この筋シナジーがどのように変化するのか検討を行う.
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