研究課題/領域番号 |
14J03941
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
中村 佳博 新潟大学, 自然科学系, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 石墨化 / 炭質物 / カイネティクスモデル / 顕微ラマン分光 / XRD / HRTEM / 炭素同位体 |
研究実績の概要 |
博士課程1年目にあたる本年度の博士研究は以下の3点を主軸に研究を継続して行ってきた.(1) 修士過程における研究成果の論文化 (2) 新しい実験に向けてのラマン分光分析法の方法論確立と,低温変成岩(四万十試料)の採集・分析 (3) グラファイト合成のための高温高圧実験法の確立と実験に関して,1年間にわたり研究を行なってきた. 1. 修士研究の論文投稿: 修士論文の一部を修正しJournal of Structural Geologyへ投稿した.そして,査読を受け最終的に投稿論文として受理された. 2. 天然における石墨化プロセスの解明: 日高変成帯上部層に加えて,本年度から新たに四万十川北帯~南帯にかけての付加体堆積岩中炭質物の結晶構造進化に関して研究を開始した.那珂川周辺と魚梁瀬ダム周辺の地質調査を行い,炭質物の微細構造の観察と顕微ラマン分光による結晶構造の分析を行った.分析では,低結晶性炭質物に最適な分析法を確立するために様々なレーザー強度や石炭組織ごとの変化に関して詳細な検討を行った.またこの地域の泥岩試料には,石炭組織が残っているものが多くそれぞれの石炭組織ごとの結晶構造の比較を行った. 3. 高温高圧下でのグラファイト合成実験:今年度から新たに芳野極 准教授との共同研究として,天然炭質物を用いた高温高圧下でのグラファイトの合成実験を開始した.この実験を行うにあたり,一年目は,実験に用いる出発試料の準備・実験手法の確立等を検討した.すでに予備実験より,グラファイトが短時間で比較的低温でも合成できることが明らかになった(Ea : 34.59 KJ/ mol, 56.54 KJ / mol ).これらの活性化エネルギーは,従来よりも非常に低い値を示しておりせん断を考慮しなくても十分に天然スケールの温度圧力条件で石墨化を解釈することが可能であることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,新たに2点の研究をスタートすることができた.一つは,野外調査をこれまでの日高変成帯に加えて四万十川北帯~南帯にかけての付加体堆積岩中炭質物の結晶構造進化に関して研究を開始した.この研究では,実験に使用する炭質物の天然での結晶構造進化を連続的に追跡することができ,最も実験に適した試料の選定を行うことができた.この野外調査における天然試料の分析によって,異なる地域での比較検討が行えるようになった. もう一つの新しい研究として,天然炭質物を用いた高温高圧下でのグラファイトの合成実験を開始した.ピストンシリンダー・マルチアンビル型実験装置により合成を行うための,複数の予備実験を行い,ターゲットとする温度・圧力・時間を決定した.そして,実験時に使用するアッセンブリーにも改良を行い最適な実験法によって,すでに30回を超える実験を行なった.この実験によってグラファイトを合成することに成功し,時間-温度の関数より新しいカイネティクスモデルの構築を現在試みている. 次年度より天然と実験との比較がすでにできるまでに実験が成功しており,当初の研究計画に対して順調に研究が達成されていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として,以下の研究計画の考えている.前年度に行なった実験成果の吟味を行い,新しいカイネティクスモデルを構築する.これによって,実験から得られた時間ー温度式を組み立てる.そして,この時間ー温度式(実験値)が,天然プロセスの石墨化にうまく適用できるかどうかに関して,比較検討を行う. この検討がもしうまく適用できるのであれば,変形や圧力の影響よりも出発物質の影響が大きいという結論へ達する.一方,この実験値と天然プロセスが大きく異なってしまう場合は,次の新しい実験をモデルする段階へ移行する. 次の段階の実験としては,これまでの単純系(時間ー温度系)に加えて変形・圧力を更に複雑に変更しカイネティクスパラメータがどのように変化していくかをモニターする.この比較によって,従来の単純系で説明できない影響を評価し,そのプロセスを加えることによって天然の石墨化を定量的に解釈することを目指す.最終的に,石墨化が定量的に解釈することができれば,それぞれの影響(温度・時間・変化・圧力など)を個別に解釈できるようになると予測している.
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