研究課題/領域番号 |
14J03947
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長井 遼 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | ヒッグス粒子 / ユニタリティ / スピン1粒子 |
研究実績の概要 |
本研究ではこれまで将来実験によって実現可能とされるヒッグス粒子の結合定数精密測定に焦点を当てて、上述の問題を解決する新物理模型の探索に努めてきた。今年度は特に新たなスピン1粒子を含む新物理模型に着目し、摂動的な模型におけるスピン1粒子の一般的性質をユニタリティ(確率の保存則)の観点から調べた。その結果、摂動的なスピン1粒子の結合定数の間に非自明な関係式が成立していることが明らかになった。興味深いのは、摂動的なスピン1粒子の結合定数が将来精密測定可能なヒッグス粒子の結合定数に依存しているという点である。したがって、今後加速器実験によって新たなスピン1粒子が発見された場合、その実験結果と本研究によって得られた関係式およびヒッグス粒子の結合定数精密測定結果を比較することによって、新たなスピン1粒子が量子色力学におけるロー中間子のような非摂動的な共鳴状態なのか、あるいは標準模型のゲージ群を拡張または統一した際に伴うゲージボソンのような摂動的な粒子なのかを判別することができる。このような新物理模型の詳細に立ち入らない一般的なアプローチは他の研究には見受けられず、独創的である。さらに本研究結果は摂動的なスピン1粒子の加速器実験現象論を議論する際にも有力な指針となる。そこで、本研究では上述の結果および最新の実験データを用いて、摂動的スピン1粒子に対する加速器実験からの一般的制限を明示した。 上述の研究に加えて、有効理論に基づいた暗黒物質と原子核の散乱断面積の理論的計算の研究も行った。この研究では先行研究で考慮させていなかった暗黒物質の有効相互作用による量子効果に焦点を当て、この量子補正が暗黒物質と原子核の散乱断面積の予言に対して大きな影響を与えることを定量的に示した。この研究成果は査読付き論文にまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒッグス粒子の精密測定実験から拓かれる新物理の展望を明らかにするという本研究目的に対して、これまで申請者は、任意個数の中性スカラー粒子およびスピン1粒子を含む模型の一般的性質をユニタリティ(確率の保存則)や摂動計算に生じる紫外発散の相殺(くりこみ)という観点のみを使って議論し、将来加速実験におけるヒッグス粒子の結合定数精密測定実験に対して一定のインパクトを与えることができた。また、これらの結果は査読付き論文としてまとめられ、多くの国内会議や国際会議で研究発表を行った。以上の観点から、現在までの進捗状況としてはおおむね順調に進展していると考えられる。しかしながら、あらゆる新物理模型の可能性を網羅的に調べ尽くすためには本研究内容を拡張する必要があり、本研究目的を達成するためには今後も引き続き現在進行中の研究を迅速に推進させていく必要があると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
数多く存在する新物理模型の可能性を網羅的に調べ尽くすためには、本研究のこれまでのアプローチを拡張する必要がある。例えばこれまで本研究では新たな中性スカラー粒子や新たなスピン1粒子のみを含む新物理模型を議論してきたが、超対称性をもつ新物理模型等を含めて議論するためには、電荷を持つスカラー粒子(荷電スカラー粒子)を導入する必要がある。また、新たなスピン1粒子を含む繰り込み可能な理論は新たなフェルミオンの存在も伴う為、具体的な模型との対応を取るためには新たなフェルミオンの存在も考慮に入れなくてはならない。以上のように、あらゆる新物理模型を包括するような一般的な議論を展開するためには本研究アプローチを上述の新粒子を含むように拡張する必要がある。そこで、今後は本研究の枠組みに荷電スカラー粒子や新たなフェルミオンを導入することを検討する。そしてこの拡張された枠組みの摂動論的ユニタリティやくりこみ可能性を解析し、このような新粒子を含む新物理模型の一般的性質を調べ、ヒッグス粒子の結合定数精密測定に与える影響を調べる。現在、荷電スカラー粒子に関しては共同研究者と現在議論進行中であり、摂動論的ユニタリティや繰り込み可能性からくる一般的な制限に関して一定の知見を得ている。
|